「Phone Call」



 
 
キネマトロンの通信を切る時、ノイズの中にまで面影を求める俺がいる。
散々、聞き慣れた声なのに。
懐かしさとは違う何かを、お前も感じているのだろうか?
 
 
 
キネマトロンの通信を始める時、微かに指先を震わせる俺がいる。
散々、聞き慣れた声なのに。
その事をひた隠しにしている事に、お前は気付いているのだろうか?

 
 
いつかの日、お前は言っていたな。
『帝劇は花園、お前はミツバチ』
思い知ったか、バカ野郎。
お前の両脇は帝劇の花で囲まれているんだろ?
綺麗な花には棘がある。身じろぎ一つで血をみるんだぜ。
 

 
モギリ、接客、伝票整理。肩揉み、組み手、夜の見回り・・・・・
いやはや、隊長家業も楽じゃない。
だが俺はお前ほど、そう不幸に生まれちゃいないらしい。
お前の制服、モギリのままなんだってな?
ご愁傷様。化けて出るなよ?
 
 
曰く、『巴里の街には夢がある』
詩的な台詞には誤魔化されないつもりだったが、どうしてどうして。
人の波はレビュウのようで、それが街全体を包んでいる。
昼もいいが、夜もまたいい。
最近撮った写真を送る。アパートの前、カフェテラスでの一枚だ。
 

クロワッサンとスクランブルエッグの朝食をオープンカフェで?
その朝メシと隣の彼女、一体どっちが美味かった?
花屋の娘?聞こえてねーよ。
それはさておき、お前のアパート。
窓は申し分ないが、ベランダが少々狭いぞ。
 

何を言ってる。バカかお前は?
自分の部屋にでも忍び込んでろ。マリアに撃たれても知らないがな。
来れるもんなら、いつでも来いってんだ。
窓は開いてるぞ。ついでに罠も仕掛けておいてやる。

 


相変わらずだな。だが、心配するな。
さすがの俺でも、翔鯨丸の無断借用までは出来そうに無い。
その理由が出来た暁には、せいぜい慎重に伺わせてもらうとするか。
───その理由?どうせお前さんが自分で作るんだろ?違うか?

 


言うじゃないか。お前さんは俺の何だ?親か、子守か?
その代わり、覚悟しておけよ?
シャノワールは、帝都に増して人使いが荒い。
誰も彼も遠慮が無い。俺も思い切り甘えさせてもらうからな。

  


ははははは。ヒゲ男爵に、黒ネコ女王、か。
辻斬り姉妹に耐えたお前が言うんなら、そりゃまた見事な修羅場だろうぜ。
ところで一応聞くんだが、盗聴機なんか付けられて無いだろうな。
万一耳に入ってみろ。あらゆる理由で死ぬぞ、お前?

  








確かに見飽きたはずの顔

ぎこちなく浮かんだ微笑を

電波の所為だと決め付けて

震える画面に煙草の煙を吹きかけては

上手く誤魔化す俺がいる

本当の理由は知っているから

言わない

言えない

「お前に、会いたい」