「・・・そんでな、それから大神はん・・・・くくくっ・・・ダメや!おかしくって喋られへん!」
 「なによ〜!そこまで喋ったんだから、終わらせてくれなきゃ酷だわ!」
 「だ、だって・・・その後すぐに帝劇から迎えが来たんだけど・・・むはははは!し、しぬ!腹イテ〜!」
 「ちょっと紅蘭!早く話してよ!」
  

 フリルのエプロン姿の青年が、祭りの人ごみの真中でチャイナドレスの少女にすがって泣いているという光景の異様さに、遠巻きに見物人が集まってきても、大神はこのショックから立ち直れずにいた。始めは面白がっていただけの紅蘭だったが、さすがにこの大神の落ち込み具合に気がとがめ始めたのか、ちょとだけ澄まなそうな顔をして、とりあえず大神に立つように促した。
 「さ、立ってよ大神はん。・・・ウチが少しやりすぎたみたいやな、すんませんなぁ・・・」
 「・・・あぁ・・・うん」
 大神はそれだけ言うと、エプロンに付いてしまった土ぼこりを払いながら立ちあがった。そして今さっき駆けて来た方へと、フラフラと歩いていった。
 「あ、大神はん?」
 「・・・とりあえず、店番はしとかないと、さ」
 そう言って戻ろうとする大神に、紅蘭が慌てて追いかけた。
 「大神はん、ウチ・・・」
 「・・・お鈴ちゃんが帰ってきたら、一緒に帰ろうな」
 「・・・・うん」
 なんとなく気まずい中、途切れ途切れの会話でも、紅蘭は大神が自分に口を開いてくれたことが嬉しかった。そうして二人が屋台に戻ったその時、
 「いっちろうちゃぁ〜ん♪お迎えにあがりましたわよ〜ん!!」
 という、どこからどう聞いてもこの世でただ一人という声が境内にこだました。
 帝劇から迎えに来たのは、「ザ・摩天楼」こと斧彦だったのだ。
 「おー!迎えにきてくれはったんやねぇ。マリアはんでも来るんか思うとったんやけど、なんや斧彦はんやったんかいな」
 「んふ〜、そうなのよ。マリアちゃんが手が離せないからどうしてもって・・・でもあたしお化粧してきちゃった〜」
 「そんなん、なんでまた?」
 「だってぇ・・・一郎ちゃんに会うんですもの〜!!」
 そう言って、「和製アパッチインディアンの生き残り」こと摩天楼はくねくねと体をくねらせては大神に熱視線を浴びせていた。
 「なら・・・かえろっか」
 大神がやれやれといった表情で紅蘭に言った。
 「そやね、お鈴ちゃんが帰ってきたら」
 紅蘭も、はにかむ様にして肩をすくめて見せた。
 「なんか今日は色々あったなぁ」
 「もう、言わんといてや。ウチのせいやもん」
 「はは・・・でも、面白かったよ。もうこりごりだけど」
 「ふふっ、それもそやね。もう十分やもんね」
 大神と紅蘭が顔を見合わせて笑いあった直後である。
 「ちょっとまった〜〜〜〜!!!Σ(*∇*)」
 突如、斧彦が驚愕の雄叫びを上げたのである。そして紅蘭に詰め寄ると、紅蘭の手に持っていたものをひったくった。
 「紅蘭ちゃん!これなに!?」
 「え?・・・・あ・・・」
 「コレほんとなの!?わたアメ買えばいいのね!?」
 「あ〜・・・ん〜とな・・・」
 斧彦が手に持っていた物・・・・それは先ほどまで客引きに使っていた昇りだった。
 「あ、斧彦さん、コレは冗談でして、もう・・・・」
 大神が斧彦に近づいたその時である。
 むちゅちゅちゅぅううう〜〜〜〜っっっ!!!!
 もはや戦慄とも呼べる音が斧彦と大神の唇の間から響き渡った。
 唖然とする紅蘭の前で、大神が斧彦の腕の中でもがいている。
 そしてそのままの態勢で斧彦は軍服のポケットから何枚かの紙幣を鷲掴みにすると、紅蘭に向かって投げつけた。
 「ちょうだい!わたあめ全部ちょうだい!!!いますぐよぉぉぉぉっ〜」
 「いや・・・もう、終わったんよ」
 あきれたようにして宥める紅蘭に、斧彦はぶんぶんと頭を振って食い下がった。
 「いやよ!そんなの看板に偽りありじゃないの!!頂戴!」
 「ほんまやて!それにこんな大枚渡されても、ザラメかてもうないんやで!」
 「そう・・・残念だわ〜。じゃあ、帰りましょうか一郎ちゃん・・・って息してないわ?」
 「アンタがあんなオソロシイ真似するからや!」
 紅蘭は、斧彦の仕打ちにすっかり白目をむいてしまった大神を無理やり引き剥がし、その頬を軽く叩いた。閉じた瞼がかすかに震えるのが見える。
 「う・・・・・」
 「おぉ、イキとる!」
 「よかった!あ、あたし、一郎ちゃんにもしものことがあったら生きていけないわっ!!」
 「なにゆうてんねん!あんたのせいや!」
 大神を抱いたまま、紅蘭は斧彦を睨みつける。
 やがて完全に目を覚ました大神は、少々よろめきながらも二人を宥めつつこう言った。
 「ま、まぁまぁ・・・とりあえず、お鈴ちゃんを待とうよ。ね?」
  
  
 ザラメの入った一斗樽を荷車に満載してこのみが帰ってくるのは、それから5分後のことだった・・・・
  

 「それから先は・・・・思い出したくもないよ;;;」
 「え〜?ここまで引っ張っといてそれは無いでしょう!?もう!」
 「ここまでで十分だろ・・・それより、事務局の由里くんには喋らないでくれよ?」
 「えぇ・・・っと、帝国劇場ってここですかぁ?」
 「わんわん!」

 帝劇に戻った二人と一匹は、とりあえず鯛焼きのことを報告するために食堂に向かった。
 結局、鯛焼きの費用は帝劇の飲食経費から落とすことになり、誰の財布も痛むことなく、その場にいた全員がその味を楽しんだ。
 ちなみに・・・・
 その鯛焼きを、フリルのついたエプロン姿の大神が全て「特別サービス付き」で振舞ったのは、言うまでも無い・・・・・



あとがき


 このような創作文を書くのは実に10年ぶりくらいのことですね。
 十年前というと・・・・「トルーパー」とか「キャプ翼」が一世を風靡していた頃ですか。いやなつかしい・・・それでも、今回ほど尺のある作品を作ったことは無かったので、自分でもよくもやったもんだと思っております。頭で描いたイメージに手が追いつかなくて、「まだこれも書かなきゃ、あれも書いてない」と焦りまくった日もありました。そんな状況になったのもじつに久しぶりのことで、初めてのSSにしては非常に充実感があったように思えます。

 今回は「実は『何でもない日常』こそ、なかなか良かったりするもの」というテーマで作ってみました。メインで登場してくるキャラクターは少ないわりに、殆ど全員の名前が出てきているのは、やはり帝劇の「日常」を表現したかったからです。隊長もゲームでのストーリーからは想像できないほど「ふぬけ」になっていますし、他のキャラクターについては、少々オーバー気味にキャラ付けをしてみました。いかがでしたでしょうか?

 オリジナルキャラクターの「鈴蘭このみ」ちゃんは、別な作品にも登場させてみようかなと思っております。イメージは「馬車道」(関東近隣に展開するアンティーク基調のレストランで、そこのウェイトレスさんが袴を着用されています。とてもかわいいです)のカラーリングの袴にメイド風のエプロンドレスを着ていて、更にメガネっ子です。マージャンの役で説明すると・・・・
 
リーチ+一発+ツモ+タンヤオ+ピンフ+ドラ二=ハネ満
 
馬車道(二役)+エプロン+銀縁メガネ+三つ編み(夏季)+ロリキャラ+泣き虫=お鈴ちゃん
です。王道を行く役作りですが、当たり所が悪いとトバされます。

 さて、次回までにどのくらいの間が設けられるかは分かりませんが、この作品を機会にしてより多くの皆さんに読んで頂ければ、幸いこの上ありません。 

(2001年3月8日)