火柱が射撃場の壁を吹き飛ばした。とろけたように歪んだ風穴の中からもうもうと火煙が立ち昇り、それが収まりきらぬうちにマリアは闇の広がる地下廊下へと降り立った。乱れたブロンドを大きく掻き揚げて露になったその眼差しは、まさに二丁の拳銃を手にしたアークエンジェル。戦のために生まれた者の、戦に生きる姿であった。
 「もったいつけた登場の仕方だよな・・・・・・」
 声が聞こえた。姿は見えなかった。しかしマリアは、その声に向かってまるで目の前で対峙しているかのように即答した。笑みさえもが満面に浮き出していた。
 「あなたもね」マリアは優雅と思えるほど静かにエンフィールドのシリンダーを開くと、排莢と装填を済ませた。「お出迎えかしら?わざわざご苦労様」
 「気取って語ってんじゃねーよ」
 声がまた響いた。マリアに向かって発せられてはいるが、周囲の暗闇に漂うような、まるで四方八方から同時に発せられているような響きだった。しかしそれを不思議とも思わず、マリアはエンフィールドを持った両手を交差させ、十字に構えた。
 「ロングコートに二丁拳銃・・・・・・カッコイイじゃねーか」
 口笛の混じったその賛美に、マリアは微笑で答えた。
 「小娘の一人二人葬って、いい気になってんじゃねーぞ?」
 「それは挑発なのかしら?」
 「いや、アンタの墓碑銘さ」
 マリアは笑った。実に楽しげな様子だった。
 「待ち伏せなら待ち伏せらしく、不意打ちでもしたらどう?」
 「エリカやグリシーヌじゃねえんだ。アンタ相手にそんな手が使えるか?クワッサリーなんだろ?」
 「クワッサリー……昔の話ね」
 「その両手がそうは言ってないぜ」
 「気に入らないのなら、貴女らしく腕ずくでなんとかしてみたらどう?」
 すると、マリアの周囲で漂っていた闇がぐるりとうごめいた。それまで散らばっていた気配がマリアの正面のある一箇所に集中し、鉄の音を立てて一つになった。長いチェーン。オリーブ色のロングコート。
 ロベリア・カルリーニ。
 コートのポケットに両手を突っ込んだ姿勢でロベリアはそこに立っていた。ただそれだけだというのに、その眼差し、風貌、存在、気配の全てが凶悪に満ちていた。眼差しは挑戦的であり、また好戦的でもあった。だが考えるまでも無く、それが彼女における自然の姿なのであった。
 「アンタには気にいらねぇところがある。世界を全部悟りきったようなその物腰だ」
 その言葉が終わりきらぬうちに、エンフィールドが火を噴いた。マリアはその前触れも見せずに引鉄を引いていた。自動小銃を超える連射がロベリアを襲ったが、ロベリアは避ける事をしなかった。そのかわり、コートからぶら下がったチェーンが一瞬で六発の弾丸を絡めとり、炎はロベリアのコートに吸い込まれた。
 ロベリアは消えていく炎を見回しながら、笑って言った。
 「だが気に入ってるところもある。敵に遠慮がねぇところだ。そんな風にな」
 マリアはエンフィールドの弾倉を開くと、空になったシリンダーに再度弾丸を装填した。ロベリアは何もせずにその動作を見守った。
 「霊力が膨れ上がっただけじゃなさそうね。魔法でも使ってるんじゃないの?」
 「そのようなものかもな」
 「私もあなたの事、気に入っていたわよ」
 「へぇ?」ロベリアの眉が吊り上った。「クワッサリーに気に入られたとあっちゃ、光栄だ。一体どこがお気に召したのか、是非聞いてみたいところだね」
 マリアが弾倉を閉じた。
 「私が全力で手を下す相手にふさわしいから・・・・・・そんなところかしらね」
 マリアがそう言い終えたときには、銃口は既にロベリアを捕らえていた。もはや会話は必要なく、この姿勢こそが宣戦布告、そして絶対勝利の証であるかのように。それを見たロベリアはポケットから両手を解き放った。動作はたったそれだけだったが、攻撃の姿勢は既に整っていた。
 「そろそろ、こっちの番にさせてもらうぜ?」
 ロベリアの手の中で炎が、その周囲でチェーンが舞った。しかしマリアは銃口を下げなかった。親指が撃鉄を起こし、猛烈な反動と攻撃にに備えるかのように後ろ足がさらに下がった。
 
 マリアには二つの確信があった。一つは、ロベリアの攻撃は敵が強大で困難であればあるほどシンプルになる、という事だ。だがそれは、ただ単純である、という話ではない。状況の判断と自身の作戦がズバ抜けていて、かつ自身の実力に絶対的な自信を持っているのだ。この狭く長い廊下は圧倒的火力を武器にするロベリアにとって、非常に有効に働くだろう。待ち伏せのつもりがなかったのなら、ロベリアは必ず真正面から攻撃してくるに違いない。
 もう一つは、マリアは今や万全の体勢を手に入れているということだ。その作業は射撃場から身を出すところから既に開始されていた。壁や天井、そして相手が紅蘭程度なら造作もないが、ロベリアを葬るにはより強力な霊力が必要だったからだ。会話によってもたらされた時間はマリアの霊力を静かに増幅させ、さらにはロベリアの手の内さえ見せてくれた。動くチェーンは敵ではなかった。
 「さよなら、ロベリア」
 マリアは引き金を引いた。
 
 しかし銃弾は届かなかった。何か、目に見えぬ強大なものがマリアとロベリアとの間に立ちはばかり、マリアが放った銃弾を遮った。弾丸が細切れに砕かれて塵となり、宙に散った。爆風だけがロベリアの足元を漂った。はじき返された衝撃波を、マリアは身をかがめてやり過ごした。
 
 「こっちの番だと言ったはずだ」
 爆風がロベリアのコートの裾を大きく広げ、重そうなブーツを履いた足が覗いた。
 「つまり、消えるのは貴様だという事だ」
 ロベリアがマリアと対峙して初めて、一歩を踏み出した。
 足が多かった。コートの中に小さな腕が見えた。
 ジャンポールがこちらを見つめていた。
 「避けた方がいいぜ・・・・・・逃げられると思っているのなら、の話だが」
 一層大きな火炎がロベリアの周囲に立ち込めたとき、ロベリアのコートの前が完全にはだけた。
 「絶対、逃がさないけどね」
 アイリスが燃えるような微笑を浮かべ、ロベリアの傍らに立っていた。
 
 
 【残り7人】


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前半戦の勝者が再登場!
 
ロベリアとアイリスの脅威がマリアを襲う!
 
新年あけましておめでとう!
 
待て、次回!