レニの誘導尋問(?)にまんまとしてやられた大神だったが、とりあえずこれまでのいきさつを話すことにした。
 ただし、相手がスミレだということだけは伏せてある。いくら自分で墓穴を掘ってしまったとはいえ、これだけはまだ話す気にはなれなかったからだ。

 「ふうん・・・・」
 レニは大神の話の最中、ハサミを動かす手を一時も手を休めることtはなかったが、大神の言葉の節々では相づちを打っていた。話が続く中、長かった大神の髪の毛もだんだんと切りそろえられ、レニが二度目の休憩(実際はハサミの手入れ。大神の髪の毛は量が多い上に非常に硬く、切り落とした細かい髪の毛をこまめに取り除かないとハサミが鈍るのだ)に入る頃には、ほとんど完成と言っていいほどの仕上りになっていた。
 「はい、吸っていいよ」
 じっとしていたおかげで肩がこったのか、タオルを外されたとたん、首をコキコキ鳴らし始めた大神に、レニがそれまで取り上げていた煙草を差し出した。大神は肩に手を置きながら、別の手でそれを受け取ると、片手で一本振り出して口に咥えた。しかし、あったはずのライターがない。
 するとレニが火の付いたライターを差し出してくれた。大神はレニの持つライターを、両手で包みこむようにして煙草に火を付けると、いかにも満足そうに燻らせた。見ると、大神の脇にはそれまでなかったはずの灰皿まで用意されている。
 「へえ・・・」
 大神は煙草の煙を揺らしながら、感心するように呟いた。すると、それに気がついたレニが不思議そうに話しかけた。
 「なに?」
 「ん?いや、よく見てるなと思って」
 「だって、煙草吸うんでしょう?」
 「まあ、吸うけど」
 「なら、灰皿が要るのは当然。落ちた吸殻を拾い集める手間も省ける」
 「・・・・・なるほど」
 「というわけで、今までの分拾っておいてね」
 「・・・・後でね」
 そこまでレニに言われるともう反論は出来ない。元々大神はそういう性格なのである。しかし再びタオルを肩にかけられながら、大神は何故だか可笑しくなってクスクスと笑った。するとレニが、珍しく不思議そうな様子(それといっても、大神以外の人間には全くわからないのだが)で声を上げた。
 「何が可笑しいの?」
 「ん?別になんでもないけど、ただ、ちょっと」
 「ただ、何?」 
 「いや、レニは案外いい奥さんになるんじゃないかなと思ってね」
 「ボクが?」レニはきょとんとした表情を見せた後、こう言った。「じゃあ、隊長は?いい旦那さんになる?」
 その言葉に、大神は一瞬息を呑んだ。
 レニは大神の台詞に、とりあえず適当な受け答えをしただけだったのだろう。だからその言葉には特別な意味などないし、大神もそれはわかっているはずだった。しかし明日を控えている大神には、非常にセンセーショナルな言葉に聞こえてしまったのである。
 (・・・・レニと、俺が・・・・奥さんと、旦那さん・・・・・)
 つまり、プロポーズだ。
 今までよりも細かいハサミの音を聞きながら、大神はふわふわと浮かんでくるイメージを頭の中にめぐらせた。

 レニと俺が夫婦なら・・・・
 やっぱ、同じ家に住んでるんだろうな。そして同じ屋根の下で・・・同じ・・・布団で眠るんだろうか。
 ・・・・俺はまだ軍人で・・・・彼女は・・・・
 レニもまだ、帝国歌劇団の女優でありつづけるのだろうか?それとも、専業主婦?
 ・・・・・レニが専業主婦?バカな・・・・
 ・・・・でも・・・そうあって欲しい。
 君は毎日毎朝、俺を起こしてくれる。毎朝、朝ご飯を作ってくれる。
 寝起きの悪い俺は、その朝メシに文句をつける日もあるのだろうか?
 俺は一人でいる君が何故だか気になって、昼休みに電話したりするのだろうか?意味もなく?
 帝劇の連中と飲んだりして、午前様で家に帰って、君に叱られる日もあるのだろうか?
 そうやって君と二人で、いつまでも・・・・・いや、二人ってのは寂しいな。
 そうだ、犬を飼おう。
 フントみたいに小さいのじゃなくて、大きくて、たくましい感じの犬を飼おう。
 大きくて、白い・・・・ヨーロッパで牧羊犬になるやつとかがいい。でも、レニは嫌いかな?
 庭先には花を植えよう。季節ごとに花を植えて、二人で世話をして眺めよう。
 きっとこの頃なら・・・・もうすぐ夏だから・・・
 なら、アサガオを植えよう。垣根いっぱいに広がるアサガオを植えよう。風鈴の鳴る縁側で、それを眺めて二人で過ごそう。
 そして君が望むなら、俺は毎日、何度でも君への愛を誓おう。
 だからレニ・・・・
 レニ・・・・
 レニ・・・・

 
 ・・・・・・・
 「隊長!」
 バシッ!
 「うわっ!?・・・・・ん?」
 突如背中に広がった強烈なショックによって、大神は夢想世界から現実へと引き戻された。どうやら眠っていたらしい。
 散髪の方はとっくに終わっており、何時の間にやら髭も剃れている。見ればレニも道具を片付け始めていた。
 「・・・・・よいしょっと」
 すっかり刈りあがった頭をなでながら、大神はやおら立ち上がり、ぐっと背伸びをした。
 「いやぁ、おかげで助かったよ、ありがとう。ところでさっき叩いただろ?」
 「隊長が、起きてくれないから」
 レニは、大神には視線も向けずにそう言うと、ハサミやクシに付いている髪の毛をせっせと払い落としていた。
 時も経ち、吹く風もやや冷たく、もうじき日も落ちるだろう。
 散髪も済んだことだし、ここを片付け終わったら、フントを探して散歩にでも連れてくか。
 大神はそう思い、劇場内へと戻ろうとした。その時、レニが声をかけた。
 「隊長」
 「ん?なんだい?これからここを片付けるから道具を取りに行くんだけど」
 「いや、それならいい。ボクがやるから・・・・・それより隊長」
 「ん?」
 「隊長ならいい旦那さんになる、と思う。それから、いいお父さんにも」
 「・・・・・」
 「だから、お見合いがんばってね」
 大神には言葉が見つからなかった。
 だが、レニと大神が並んで中庭からのドアを潜ろうとした時、大神はこう答えた。
 「まあ、ね」
 するとレニは、にこやかに微笑んだ。

 君が隣にいてくれたらそれでいい。
 君の笑顔を見ていられるならそれでいい。
 それが時々でもかなうなら、今はそれでいいだろう。

 「えー・・・・本日はお日柄もよく、って・・・・これじゃ媒酌人だな」
 レニと別れた後、大神は正面玄関に向かいながら、明日の為の台詞をひねり出していた。
 明日まで、もう何時間もない。服選びで今夜は徹夜か。考えれば考えるほど、いよいよバカバカしく思えてくる。
 ぶつぶつ呟きながら外へ出ると、帝都の街並みは既に夕暮れの中に溶けかかっていた。
 フントは結局見つからなかったけど、散歩に行くか。
 大神は一人、石畳の上を歩き出した。
 振り向けば、そこにレニがいることを心から願いながら。
 

 

あとがき

 「大神さんが不本意な見合いをする」
 そんな話が描きたくて、ちょっと強引なストーリを作ってみました。いかがだったでしょうか?何時にも増していろんな要素がコラージュされたような仕上りになってしまいましたが・・・・何より見合いしてないし、まあ、前夜ってことで・・・・でも話は昼間だ(T∇T)
 
 冒頭の米田長官に新しいキャラクター付けを与えてみました。「実は手先が器用なレニ」も劇中にはない設定と思います。こんなこともちょくちょくやってみたいですね。遊び心は大事です。
 
 今回も疲れましたね。なまじ季節モノにしてしまったので、6月、7月と時間が流れるにつれて
 「ちくしょー、はやくしないと梅雨が終わる〜;;;」
 とか叫んでました。案の定すっかり明けましたが・・・・・次回からは出来るだけ合わせよう<なら短くせいっちゅねん
 
 最後に、話のネタのみに終わったすみれ嬢、ありがとうございました。

(2001年7月21日)