その後の私のことは、隊長も報告書でご覧になってるはずですよね・・・・?
 
「衛士第二小隊、市街戦の末レジスタンスを完全制圧」
「クワッサリーを含む分隊組織メンバーを全員射殺せり」

 誤認か、それとも、たかが小娘一人に小隊一つを失ったという事実そのものを否定しようとしたのか。
 帝国が流した翌日の報道によって、私はクワッサリーの名と共に、歴史の中から姿を消しました。
 革命の終結さえ待たずして、私は自由を手に入れたのです。

 それでも・・・私は・・・・・

 気づけば禁酒法という時代に存在を受け入れられ、私はアメリカに渡っていました。そこで私を待ち受けていたのは、金と暴力そのものでした。
 その路地からさえ硝煙の匂いが漂ってくる街・・・ニューヨークに降り立った私が、当時最大の権力を誇る暴力組織に引き込まれていくのに、そう時間はかかりませんでした。依頼されるままに私は何十人という屍の山を築き上げ、恐れられ・・・・。利用されていた事は判っています。私も、彼らを利用して、私自身の存在を確保していたのですから。
 皮肉な話ですよね・・・・
 クワッサリーの名と引き換えに手に入れた自由の世界で、私は自ら殺し屋を名乗ることで、生きる現実を取り戻したんです。

 あやめさんと出会うまで、私はエンフィールドの引き金を引き続けました。

 そしてその後は・・・・報告書でご覧になった通りですから、ご存知ですよね・・・・

  
  
 隊長・・・・大神さん・・・・

 こんな私に・・・歌い、舞う資格などあるはずがありません

 血に汚れた私が彼の夢を叶える資格など、あるはずがありません

 私は一日、一度たりと拳銃を捨てることが出来なかった

 日本に来て、あなたと出会い、幾多の戦いを共にしても、私がやっていることに変わりはないのだから

 思想を金に変え、金を正義に変えても、私は引き金を引き続けている・・・・・

 教えて下さい

 私が未だに銃を捨てることが出来ずにいるというのに

 彼は何故あのとき、私を死なせてはくれなかったのでしょうか・・・・?

 彼のいなくなった平安の世で、私はこれから、どう生きていけばいいというのです・・・・・?

   

 隊長・・・・

 隊長・・・・・

 教えて下さい、隊長・・・・・・

   
  
  
  
  

 隊長、どうして泣いているんです・・・・?

  
  
  
  
   

 その夜が明けるまでの間、大神はマリアを抱きしめながら、頬を流れ落ちる涙を止めることが出来なかった。その涙の理由を、見つける事が出来なかった。歴史に翻弄され、愛するもの全てを奪われ、それでも生きようと、必死に生きようとするマリアに、大神は何もしてやれなかった。ただ泣く事しか出来なかった。

 そして一年の月日が流れた。

 マリアが口ずさむ童歌の音色を、時は未だに変えてはくれないでいる。
 しかし今、大神は、はっきりとマリアに思いを告げることが出来るだろう。
 
 「マリア、君は愛されたのだ。深く、深く愛されたのだ。だからマリア、君は生きていくんだ・・・・・」

 舞台の袖で、スポットライトと喝采を浴びるマリアの姿を見つめながら、大神はその言葉をくりかえし、その思いが届く事を、強く、強く思うのだった。

 「夢を叶えるんだ・・・・マリア。君の夢を・・・・・僕等の夢を・・・・・・」

FIN

あとがき

このサイトを計画する以前から、私がもっとも書きたかったストーリーが、この「涙の理由」でした。
サクラ大戦第一作の発売からかなりの年月が経過していますので、もしかしたら同じ様な内容のSSをお読みになられた方々もいらっしゃるかと思いますが、お楽しみ頂けましたでしょうか。
 
 
私はマリアが好きですし、その魅力を語り尽くす事は出来ません。
ただ、その魅力の中で、一つのものをあげるとするならば、「強さ」ではないでしょうか。

訪れる悲しみを、乗り越えるのも「強さ」です。
しかしまた、その悲しみを受け入れるのも「強さ」の一つではないでしょうか?

歌劇団の構成員としての彼女。舞台女優としての彼女。
様々にその表情を変えてみても、過去に抗う事だけは出来ない。
そんな自分に負い目を感じ、時に一人ふさぎ込む彼女。
そんな「弱さ」も、私には「強さ」に見えます。
何故なら彼女は、そうすることで悲しみを受け入れようとしているからです。
ただ、その悲しみが、あまりにも大きすぎるから。彼女に訪れるのがあまりにも早過ぎたから。
彼女は長い間、苦悩の日々を送る羽目になってしまったのです。

でも、彼女はその苦悩から逃げていないんですね。

泣いても、抗っても、苦悩を繰り返しても、
彼女は悲しみに、常に対峙している。決して目をそらさない。
自分自身を蔑視しながらも、それでも逃げていないのだから、「強い」と思うほかありません。

とても素晴らしい事だと思います。
 
 
いつか、彼女にもう一度、心から人を愛する日々が訪れる事を、私は心より願っています。
そんなSSも、いつか書いてみたいですね。

(2001/09/12)