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「桜花放神!!!!」 しかし。 「ズゴォオオオアアアアアアアン!!!!」 埋め込まれた武器に手を掛けて、グリシーヌとすみれは身を翻した。満身の力を込めてそれを引き抜くと、自らの前にそれを立てた。半円の弧を描いた刃先は通路の壁を粉々に打ち砕き、何の抵抗も感じさせ無いまま彼女達の盾となった。武器に送り込まれた霊力が満ち、輝くと、それらは分厚い結界となった。 「ドッグッワァアアアアアアアアアンンン!!!!」 ぶつかり合った霊力の塊が弾ける。衝撃波は的になった二人は元より、とっさに身を縮めたさくらの体をも容赦なく切り刻んだ。空間に不可思議な歪みを残したままでそれが収まると、そこには衝撃波に衣服をもぎ取られつつも無傷で立っているグリシーヌとすみれ、自らの行為の結末に呆然とするさくらがいた。 「な、な、なんなんなんなん・・・・・・・」殆ど全裸でアワアワになっているすみれの隣で、これまたボロキレを体に巻きつけただけのグリシーヌが叫んだ。「何なんだコレは!」 「それはこっちの台詞です!」 さくらが荒鷹を掲げて仁王立ちになって言葉を返した。やはり衣服は原型をとどめておらず、袴の下の肌襦袢までボロボロになっている。 「貴様、我々を殺す気か!」 「それはお互い様でしょう!」 「だとしても初っ端からエネルギー充填120%の必殺技を使うな!貴様には闘いにおいての美意識と言うものが無いのか!?」 「見損なわないで下さい、私にだって作戦はあるんです!あれでも軽くやったつもりなんです!」 「ハッ!ここに来て虚勢を張るとは見上げたものだな!」 「虚勢じゃありません!あれで五割程度だったんですから!」 突然始まったさくらとグリシーヌの口げんかだったが、何の脈絡もなくそこに割って入ったのは、すみれでも誰でもない、意外な声だった。 「ぴんぽんぱんぽーん♪あー、あー。本日は晴天なり♪ 只今マイクのテスト中ったらテスト中♪あー、テステス♪ すいませーん、天ぷらそば一つ帝劇まで♪」 辛うじて天井からぶら下がっている館内スピーカーからかえでの声が響いて、三人はギョッと目を見開いた。 「業務連絡申し上げまーす♪ えー、プログラムの仕様上、皆様の霊力は3倍程度に 引き上げられておりまーす♪テキトーな力加減で必殺技を 披露しようとするとトンでもないコトになってしまいますので、 以後お気をつけ下さーい♪」 それ以上の言葉が用意されていたかどうかは不明だが、天井スピーカーが自らの役目を終えたかのごとく落下してきて、かえでによる業務連絡は、聞こえてきた時と同じように何の脈絡もなく途切れてしまった。 「な・・・・・」 「な・・・・・」 「な・・・・・」 なんだってまた、そんなフザケた真似をするか? そう言いたいのだが、ナレーションの内容にあきれ果ててしまい、三人とも口がきけなくなっていた。あの女、目が覚めたら絶対ぶっ飛ばしてやる。勝手に話を進めた挙句に散々面白がりやがって。 ふつふつと湧き上がってくる怒りはあるが、とりあえず今はそれにかまけている場合ではない。怪我こそ無いものの、何しろほとんど裸という状態だ。勝利条件に関係ないとは言え、やはり居心地が悪い。服が必要だった。 「さくらさん、ここは一つ休戦という事でいかがかしら?グリシーヌさんも」 この状況下、おそらく三人とも同じ意見であると踏んだのだろう。すみれはそのように提案した。 「ふむ・・・・・そうだな。確かにこのままでは、そなた等を倒したとしてもその後の行動がとりづらい」 「私、着替えてきます。代えの袴、ありますから」 「ではグリシーヌさんは私の部屋に参りましょう。サイズが合えば、私の衣装をお召しになるとよろしいですわ」 「ああ。そうさせてもらおうか」 あっさりと休戦条約が結ばれて、三人は破壊され残骸と化したドアを跨いでそれぞれの部屋へと帰っていった。ここら辺はやはり女子である。 数分後。 「さて、と・・・・・・どうしましょう?」 スペアであるという袴に着替えたさくらとそれぞれが動きやすい洋装にお召し代えを済ませたリシーヌとすみれは、再び廊下の中央に集まった。それぞれ身を包む衣服が替わっても、各自の武器は依然としてその手の中に収められている。だが、遭遇した時のような緊張感は無い。なんとなく警戒はしているものの、お互いが身構えるような事は無かった。 「そうだな・・・・・・私に考えが無いことも無いんだが、どうだろう?」 グリシーヌが顎に手を当てて考えている。残る二人は顔を見合わせた後、とりあえずグリシーヌの言葉を待った。 「我々が再び争うのはたやすい。いずれ勝敗も着くだろう。しかし、今ここに三人集まっているという事をもっとプラス方向に考えた方が良くはないだろうか?」 「・・・・・・・と、おっしゃると?」 すみれがグリシーヌの言葉尻十分に思索してから尋ねた。グリシーヌは続けた。 「手を組む、という事だ。一時的に、という条件付であることは言うまでも無いがな」 「手を組む?」 さくらが『?』マークを頭に3つ点滅させながら聞き返す。 「そうだ。あの副指令という女は、我々の霊力が3倍まで引き上げられていると言っていた。さくらの攻撃を見ればそれは明らかだし、私やすみれ、他の人間もそのようにされているのだろう」 「ええ、そう思いますけど」 「ならば聞くが、たとえ自分の力が三倍になっているからといって、同じく普段の三倍の力を持つ相手と争って簡単に勝利出来ると思うか?」グリシーヌは素早く二人を見渡した。「私はおそらく、それは出来ないと思う。出来たとしても思うほど簡単では無いだろう」 「何故ですの?」 「霊力は攻撃の力にのみ関係する事ではない。全ての力の源になっているはずだ。おそらくその者の思考すら変えるだろう。そうなったら最後、その『誰か』は三倍の力を身につけた『誰か』では無い・・・・・・『怪物』だ」 『怪物』という言葉を用いたところで、グリシーヌの説得は熱を増した。さくらもすみれも、彼女の言葉に聞き入った。 「今、我々はこうして三人集まっている。もし、この状態が維持できるとするならば、我々がこの状態を維持する限りどんな怪物がやってきたとしても有利に対応出来ると思う。何と言っても3対1なのだからな。一人が気を引きつけ、一人が応戦し、一人が裏をかく。三人同時に攻撃してもいい。もしそうなれば、その『怪物』は9倍の力を相手にすることになる・・・・・・私の言っている意味が判るか?」 答えを促されて、さくらとすみれは頷いた。 「はい、判ります・・・・・・とりあえず、今のうちは」 「いずれは私の相手をしてもらう事になりましょうけれど、その順番は関係ありませんものね。それに、受けるダメージは少ない方が良いに決まってますわ」 「なら、決まりだな」 グリシーヌが手を打った。意思を確信するかのように頷きあうと、三人は前方に手を差し出し、その手を重ね合わせた。 「言っておきますけれど、あくまでも今のうちの話ですからね」 と、さくら。 「だがその間は、お互いに協力するのだからな」 と、グリシーヌ。 「チームワーク、という事ですわね」 と、すみれ。 即席のタッグチームは、傍から見ればそうである事など気づかぬ程、殆ど無敵に見えた。また三人にとっても、実際そうありたいものだった。 「それにしても・・・・・・」すみれは改めて自分達が立っている廊下を見渡した。「まったく、不可思議な仮想空間ですこと」 三人がこの通路の中央に戻ってくる時、さくらの攻撃によって破壊されたはずの通路は完全に修復され、何事も無かったかのように復活していた。それはおそらくここが仮想空間であるという事と、彼女達がプログラムによってそこに存在しているという証明となるのだろうが、着替え終わって振り向いた時に目の前のドアが復活しているのを見た時には、三人ともたいそう驚かされたのだった。どうせなら破れた服も直してくれればいいのにとも思ったが、着替えてしまった以上それはどうでもいい事だ。 真新しくなった廊下を通り抜け、三人は歩き出した。 【残り13人】 |