|
まーじかるえんじぇるコークリコはー♪
ピンクの燕尾服がよーく似合うー♪
ほっぺもピンク♪帽子ももピンク♪
まーほうのステッキふーりかざしゃぁ♪(あらよっと)
メインイベント突然やってくるー(はーどっこい)
行くぞ!(にゃんにゃ!)
飛び出せ!(はとポッポ!)
はーくしゅかっさい♪チップはザックザク♪
嗚呼まーじかる♪ボクはまーじかる♪
そーの気になったら地・獄・絵・図♪(マジっすかー!?)
「いけいけ!スーパーマジカルエンジェル(TVバージョン)」
作詞/作曲/編曲/演奏/総合プロデュース byコクリコ&ニャンギラス
遊戯室。
結った髪を左右に揺らし、蓄音機の奏でるリズム合わせて自作のテーマソングを歌っているのは、マジカルエンジェルことコクリコである。ステージ衣装である燕尾服とシルクハットで身を固め、ビリヤード台に腰を下ろしている。元々緊張感とは無縁な性格をしている彼女であったが、今もすこぶるご機嫌のようだ。時折歌の調子に合わせて足を上下させるのだが、その仕草がまた微笑ましい。
「まーじかるえんじぇるコークリコはー・・・・・」
テーマソングは2番に刺しかかろうとしていたが、残念な事にレコードの伴奏の方が先に終わってしまったようだ。ビリヤード台からポンと飛び降りて蓄音機に駆け寄ってはみたものの、いかんせん動かし方がよく判らない。無論動かしたのは彼女なのだが、手品とは違うタネも仕掛けもある(光武以外の)機械を動かす事は苦手だった。
丁度そこへ、遊戯室のドアが開けて入ってくる人の姿があった。コクリコはその人物の顔を一瞥すると、ぱっと顔をほころばせた。
「あー、花火!丁度いいところへ!」
部屋に入ってきたのは巴里花組の北大路花火であった。早速蓄音機を動かしてもらおうとせがむコクリコだったが、花火は立てた人差し指を自分の口元に持っていき、その提案を静かに棄却した。入ってきたときと同じく音を立てずに遊戯室のドアを閉め、注意深く鍵をかけた。
「私が出て行く前、出来るだけ音を立ててはなりませんと申したでしょう?」振り返った花火は、音も立てずにコクリコに詰め寄った。「静かにしていないとここに立てこもっている事がバレてしまいますよ?つい今まですみれさんやさくらさん達が廊下にいたというのに・・・・」
しかしコクリコは全く悪びれた様子も見せず、それどころか頬をぷくっと膨らませて抗議した。
「だから我慢してたんじゃんかー。出来るだけさー」
どうやらコクリコにとって、「歌を歌う」という行為は「静かにする」という行為の中に含まれるものらしい。花火はやれやれと言った感じで頭を振り、再び始まったコクリコのリサイタルショーについては諦める事にした。まぁ、遊戯室という性格がら、ある程度の防音設備は整っているのだろうし、コクリコの歌声も別に大声という程のものでは無いので問題ないかもしれない───我々が抱えている問題に比べれば。
花火は背中に背負っていた矢筒を下ろすと、頭の中にある数々の情報を整理しにかかった。ゲームの開始直後にコクリコと合流して以来、彼女は争うよりも先にその他の人間の様子を伺う事を優先していた。そのためには自分の気配を限りなく殺す必要があったが、霊力が増幅されたこの空間において、それは思いの他にたやすい作業だった。それに、幾つかの争いが常に目の前で繰り広げられていた事も彼女に幸いしていた。そのおかげで今の彼女は、手に入れたい情報の殆どを入手していた。
花火が肉眼で確認した脱落者は2人。被害者はエリカ・フォンティーヌとグリシーヌ・ブルーメールで、両名ともロベリア・カルリーニの手によって葬られている。エリカがロベリアと接触したのは厨房での事だった。
事の次第を物陰から見守っていた花火にも、最初はそこで何が起こっているのかが全く理解出来なかった。
マシンガンを手にしつつ両手鍋をヘルメットよろしく頭に被ったエリカが、どんな角度で被ろうとずり下がってくるそれに悪戦苦闘していた時、突然彼女の影がレリーフの様に盛り上がった。そしてその動きが徐々に実像であるエリカの動きとかけ離れたものとなり、黒いシルエットは見覚えのある邪悪さを持ちながら床から立ち上がった。ロベリアの姿は普段に見る時となんら変化の無いように見えた。オリーブ色のコートに身を包み、右手の指先には武器と思わしき鉄の爪が装着されている。それ以外に武器らしい武器も無い。もしかしたらコートの内側にショットガンでも隠し持っているのかもしれないが、銃器よりも刃物の類を極めて好む彼女の性格上、その可能性は非常に少ないと言える。そう考えれば、この状況は弓矢を携帯している花火にとって極めて有利だった。自分と二人の距離は決して遠いものではなく、二人は自分の存在に全く気付いていない。さらに幸いな事に二人のブレスレッドは完全に露出しており、矢を射ればほぼ間違いなくブレスレットのを射落とす事が出来るだろう。その事について、花火には100%の自信があった。
しかし花火はその誘惑を堪えた。今の自分の目的と役割は情報の収集なのだ。有益なこれらの情報を手に入れた後に遊戯室へと戻り、待たせているコクリコと合流しなくてはならない。おそらくこのゲームは、単純に敵を消していく事よりも、信頼できる相手を味方につけた方が最終的な優位に繋がるだろう。遭遇してからずっと自分を信頼してくれているコクリコは、小さいながらも頼もしい味方だ───現時点では。
ロベリアのシルエットが徐々に色を持ち始めた。鉄の爪が周囲の光を鈍く反射し、その存在を鼓舞しているように見えた。
あの右手についた鉄の爪でブレスレットを切り落とすのか。それとも首を切り落とすのか。いずれにせよ、ロベリアはエリカを一撃で屠るだろう。彼女は土壇場でミスを犯すような女ではないし、獲物に慈悲をかける程の”ユーモア”(ロベリアにとって、慈悲とは正にジョークに他ならない)は持ち合わせていない。
だが、ロベリアの姿が完全な実体となり、その手がエリカの肩に置かれた時、花火はロベリアが自分の予想を遥かに超えた全くの別人に生まれ変わっている事を思い知らされた。
「ロベリア・カルリーニの
お姉ちゃんといっしょ!2月号〜♪」
その小鳥が歌うような声に、花火は、一瞬耳を疑うどころか我を忘れた。
「・・・・・・え?」
振り返ったエリカの口からも、その一言しか出てこなかった。それは物陰に身を潜めていた花火も同じだった。強敵であるロベリアが突然背後に現れたことに対する驚きでも、影の中を自由に移動するロベリアの霊力の高さに対する驚きでもなかった。ただ単純に、たった今ロベリアが口にした言葉への、その不条理さへの驚きだった。
「あ・・・・・あの・・・・・?」
震え、怯え、必死で現状を理解しようとするエリカ。だがロベリアはそんなエリカに向かって更なる『狂気』を贈り付けた。
「はーいこんにちはー♪ロベリア・カルリーニ♪17歳です♪
みんな、お姉ちゃんって呼んでね♪てへへっ♪」
そう言うとロベリアは、まるで川原泉の漫画の主人公がするような「にぱーっ♪」という微笑みを見せた。明るい、眩い、美しい微笑だった。
「ひ、ひぃーっ!!ロベリアさんが壊れちゃったぁ!?」
そう、怖い。
人間の抱える恐怖心というものは、既視感のある物よりも未知なる物、特に常識的に不自然であり得ない物に対して極めて強烈に反応する。たった今エリカの胸に目覚めた感情も、まさにそれだった。ロベリアは微笑むという事をしない女なのだ。彼女を微笑ませるものといえば、掠め取った他人のサイフぐらいのものだろう。しかも十分に肥えていれば、というのがその最低条件である。彼女が”無償で”微笑むなどという事は、例え西と東が入れ替わってもあり得ない事───
しかし今、ロベリアは満面の微笑を浮かべている!実に美しい、聖なる微笑を!
「きゃああああああああ!」
ついに耐え切れず、エリカが悲鳴を上げた。手に持っていたはずのマシンガンはとっくの昔に取り落としている。この恐怖から彼女を逃がす術は何もない。
「ではいってみましょー♪
本日の・・・・・おやつのコーナー♪」
そして恐怖の呪文が、ゆっくりと詠唱されはじめた。
・・・・・花火はそれまで綴じていた瞼をそっと開いた。
あの後、エリカがどのようにしてこの空間を去ったかについては思い出したくも無いし、思い出すべきでもない。それに、花火がロベリアの微笑みに遭遇する事は無いだろう。二階廊下で二度目の彼女に遭遇した時、彼女はいかにも彼女らしい方法でグリシーヌを葬っていたのだから。
エリカはいなくなった。グリシーヌもいなくなった。それで十分だ。あまりにも哀れで、あまりにも不運ではあるが・・・・・
「ぴんぽんぱんぽーん♪」
突然、天井の館内スピーカーから聞き覚えのある声が響いた。言うまでもなく、このゲームの主催である藤枝かえでの声である。
「お知らせいたしまーす♪
あなた方の闘いぶりが地味なので、見ていて面白くありませーん♪
だから、こちらからけしかける事にしまーす♪
これから1時間毎に各々の潜伏箇所を公開していきますので、
テキトーに参考にしてお互いに叩き潰しあってくださーい♪」
それを聞いて、花火は思わずコクリコの方を見た。さすがのコクリコも既に歌う事を止め、神妙な顔つきでスピーカーを見上げている。これまでこの場所に潜伏し、身の安全と情報による優位を確立していた彼等にとって、この情報公開は致命的な打撃になりかねない。確かにこの遊戯室という場所は身を潜めるには上等な場所だった。
いっそこのまま篭城し、誰かが入ってくるのを待ち伏せるか?
花火の脳裏をそんな考えがよぎった時、スピーカーは続きを喋りだした。
「えー、ではいきまーす♪順不同でーす♪
真宮寺さくら、一階ロビー。神崎すみれ、同じく一階ロビー。
ロベリア・カルリーニ、屋根裏部屋。北大路花火、二階遊戯室。
コクリコ、同じく二階遊戯室。桐島カンナ、同じく二階遊戯室・・・・・
「えっ・・・・・?」
スピーカーの最後の言葉を聞き、花火は体中の血液が凍りつくような思いがした。もう一度繰り返してはくれないだろうかと期待したが、スピーカーはその他のメンバーの所在と戦線離脱者の名前を述べた後、あっさりと通信を打ち切ってしまった。
今、スピーカーはなんと言った?桐島カンナがこの部屋にいる?そう思うより早く、花火は床に置いていた矢筒から一本を引き抜くと素早く弓を構えた。壁の四隅、天井にさえも視線と矢じりを向け、まだ見えぬ、しかしこの場所に存在するはずの(あるいは、存在すべき)対戦相手に戦意を燃やした。だが、部屋のどこにもカンナの姿はない。
「・・・・・どういうことかしら」
胸の奥に強烈な不安が沸き立ってくる。遊戯室は備品が少なく、コクリコが座っているビリヤード台を除けば身を隠すどころか遮蔽物となるような物も無い。この場に居れば必ず目に付くはずなのに、何故姿が見えない?花火の脳裏に、現状についてのあらゆる可能性が渦巻いた。
「そんなに心配しなくてもいいよ、花火?」
コクリコだ。逆さにしたシルクハットを指の上で器用に回転させながら笑っている。実に楽しそうな微笑だった。
「心配しなくていい・・・・・ですって?」
「うん」
花火はコクリコの顔をまじまじと見た。
「だってコクリコ、相手はあのカンナさんなのよ?確かに私たちには武器があるし、おそらく彼女は素手なんでしょうけど、彼女にとってそんな事は何の問題にならないという事くらい、あなたにも判るでしょう?」
目に見えぬカンナの存在をどこまでも不安に思う花火を、コクリコはまぁまぁと宥めた。そして、ビリヤード台の縁からえいやっとばかりに飛び降りると、シルクハットをちょこんと頭に載せ、彼女がマジックの舞台で使っているステッキを”空中から”取り出した。
「とにかく、この部屋にはもう居られないよ。誰かにドアを開けられる前に外へ出た方がいいと思う。ね?」
親指を立てた腕をくいっと動かし、コクリコが「Let's Go」のサインを作る。そして手早く内鍵を外すと、コクリコは一人で部屋の外に出てしまった。花火もあわててその後を追った。
コクリコは見えないカンナについて何かを知っている。そして、コクリコは私を陥れようとしている訳では無いらしい。
それを直感で感じつつも、花火は暫くの間、弓の構えを解く事が出来なかった。
【残り10人】
|