|
「もちろん、会うよ」
その言葉に、加山は呑みかけていた茶を喉に詰まらせた。何だって?今何を言ったんだこの男は?胸を抑えて苦しそうに咳込みながら、加山はチラリと大神の顔を見た。
「会うだと!?」
「ああ。そうだよ」
「本気で言ってるのか?」
「ああ。そのつもりだが?」
加山を見返す大神の視線は穏やかだ。つい先ほどまで凍りついていた表情も、平静を取り戻している。本気で、しかも何の迷いも無く返答している事は明らかだった。だが、その様子に加山は驚きを隠せずにいたのだった。
「お前・・・・・お前、今自分が何を言っているのか判ってるのか!?」
「なんだ、お前の言い方だとまるで会っちゃ悪いような感じだな」
「いや、その、悪いっていうか・・・・・」
必死で二の句を探している加山を、再び大神が追い詰める。実際には大神にそのようなつもりは無いのだが、あまりにも大神の答えが平然と出てくるのを見て、加山はそう感じていた。
いや、よく考えてみれば悪くは無い。その行為自体に悪の要素は全く無い。若い者同士、互いの恋の芽生えに期待を馳せるということは、むしろ完全に善であり、なおかつ健康的ですらある。
しかし大神に限り、それは許されない。
何故なら、ここは帝國華撃団の総本部なのである。
帝國華撃団には現在、8人の女性戦闘員と3人の女性オブザーバー、そして女性士官が一人いる。常に後方に控えている支配人・米田を除けば現場に立つのは女、女、女、女、女、女、女、女、男、女、女、女、そして女。語弊を恐れずに表現するならばまさにハーレム。小学生風に言えば「女の中に♪男が一人♪」。
どちらにせよ、普通ならばこの状態がウレシハズカシのこの世の春である事に変わりは無い・・・・・普通なら。
実は、大神がその相手を務めている女性達は、あらゆる意味で普通ではないのだ。
各々が霊力と呼ばれる超能力を使いこなし、常人ならざる精神力で光武という蒸気甲冑に乗り込んではバッタバッタの大立ち回り。降魔と呼ばれる悪の権化をちぎっては投げ、投げては踏みつける豪快さ。豪力請来、雄叫び一閃きらめかせつつ必殺技を打ち込めば、そこにはたちまち正義の狼煙が立ち昇る・・・・・その姿たるや、正に『太正時代の九人の戦鬼(大神含む)』。
そんな石森章太郎的状況を作り出している原動力が、なんと彼女達の抱えている「大神へ対するラブラブ気分」だというからオドロキだ。つまり大神には、各隊員の機嫌をバランスよく持ち上げる事が日々強要され、それはある意味大神の仕事の中でも最も重要視されるべきものなのである。何故なら、彼女等の「大神へ対するラブラブ気分」は戦闘の際のマンパフォーマンスにダイレクトに影響を及ぼすのだ。よく考えれば非常に滅茶苦茶な話だが、帝都防衛という立場からこの問題を考えれば、それは最優先されて然るべき致命的な問題なのだ。例えば、ザコ敵をパンチの一撃で葬り去る光武が一機いるとしても、数m歩いただけで力尽きてしまうような光武がいるとしたら、それは部隊としての機能を失ってしまうだろう。
「そんなふやけた根性で光武を動かすな!」という国民の声が聞こえてきそうだが、なにしろ「大神へのラブラブ気分」は、光武を動かす原動力である霊力を生み出すための原動力なのだから、全くもって仕方ない。
「ならば一体の光武を最強化させてやればいいじゃん!」という声もあるようだが、そうなった場合には華撃団の内部分裂が強く懸念される。確かに、大神から特別なはからいを受けた隊員が光武を駆れば、その力は最強と呼ぶに相応しいものとなるだろう。最強光武と大神の光武、その二体が繰り出す火力は半日で帝都を灰塵に帰す力を持ち、おそらく単独での作戦攻略も可能なのであろうが、それ以外の光武・・・・・・ラブラブ気分ならぬ『大神への怨念』を抱えた光武・・・・・・が他に7体もいるとなれば、それはもはやその事自体が地球の危機。一度彼女等の怒りが火を噴けば、その惨事は後の世代に「火の七日間」として語り継がれる事だろう。
(ここでなんとかしなくては、この先の地球が危ない!)
頭の中にに「ランランラン」だけの歌がワンコーラス流れた辺りで、加山は加山はようやく言葉を吐いた。
「お前な、ただの一度も会った事の無い相手から来た手紙を本気にするんじゃあるまいな」
「何を言う。会った事が無いからこそ、会ってみるんじゃないか」
「会う必要なんか無い!お前は何もなかったフリをしていればいいんだ!」
「こうして手に取ってしまった以上、なかった事に出来る訳がないだろう!」
「恋文一つに左右されるな!帝國軍人が女々しいとは思わないか!」
「そうかもしれないが、相手に会って下さいと言われたら会ってやるのが人間だろう?会って話すくらい別にいいじゃないか!それに断るにしても、会う必要があるはずだ!」
バンバンと机を叩いて大神を説得する加山であったが、大神は頑なに聞き入れようとしない。それに大神の言い分がなまじ正論であるが故に、加山の言葉の方が説得力に欠けていた。
そうこうしている内、大神は包みから完全にリボンを解き懐からモギリハサミを取りだすと、リボンを柄の部分にくるくると巻きつけ始めたではないか。それを見た瞬間、加山はテーブルに足を掛けると、対面の大神に向かって飛び掛っていた。
「やめろ!やめるんだ大神!」
「何をするんだ!?離せ!」
「悪く思うな!お前の一挙一動に地球の存亡が懸かっているんだ!」
「な、何の話だ!?」
「帝都が腐海に飲まれ、全ての海が毒水になってもいいのか!」
「だから、それは何の話なんだ!!!???」
「超巨大ダンゴムシが町を飲み込み、力学的に在り得ない巨大航空機が空を飛び、微妙にパンツを履いてるんだか履いてないんだか判別しがたい姿の美少女が最終的に世界を救う事になってもいいというのか!お前は!?お前は!?」
「ええい、誤解を招く比喩表現をするな!!!」
「ジャパニメーション、マンセー!! Σ(@д@)」
「わかったから落ち着けーーー!!!!」
加山の口から泡を飛ばして連発される支離滅裂な例え話に閉口したのか、大神は加山の制止を受け入れた。取っ組み合ってもつれた衣服を正すと、大神は全く理解不能といった表情で加山を見た。
「何なんだよ全く・・・・・」
「・・・・・・」
「俺に女ッ気が無いのは、お前も士官学校時代から気にしてたじゃないか。俺だってなんとも思ってない訳じゃないんだ!」
「な、何だと?」
大神と同様に息を整えていた加山であったが、今の一言に大きく息を呑んだ。何を言ってるんだこの男は?今の自分の何処を切り取ったら『女ッ気が無い』という言葉が出てくるんだ?
「誰だって、好きで二十何年も彼女イナイ暦を積み重ねたりしないだろ?けっこう歳も重ねたし、自分としても将来を見据えた付き合い方の出来る女性が欲しいんだよ」
「だってお前、いつも花組の娘達と・・・・・・」
「花組の?隊員達と?何の事だ?」
「・・・・・・お前、まさか」
話がかみ合わなくなっても未だその表情を崩さずいる大神。加山はついに、禁断の言葉とも言える質問を繰り出した。それは加山が普段から気に留めていた事であるが、実は大神という人間を知る者が一度は首を捻り、それでいて確認する事がためらわれるという、素朴かつ禁断の質問だった。
在り得ない。
それだけは在り得ない。
そう思いつつも、加山は言った。
「お前・・・・・・」
「何だよ?」
「もしかして歌劇団の女の子達を恋愛の対象として見ていないのか?」
「あたりまえだ!」
・・・・・。
即答。
そしてたっぷり一分間の沈黙。
加山は思った。
それって超・ヤバくねぇ?
|