帝劇の中庭では、突然の落下物による小規模なクレーターが5つ、その中央から煙を上げていた。落下物のいずれにもトリコロールカラーを背負った黒猫が塗装されている。それはこの落下物が遠く巴里から飛来してきたという明らかな証拠だった。彼らはユーラシア大陸+日本海という超・長距離を、巴里支部の虎の子であるリボルバーカノンによって一跨ぎしたのだ。
 地面に半分めり込んだカプセルがグラリと大きく傾くと、出入り口らしき箇所が中からの衝撃で弾けとんだ。カプセルの中から上るもうもうたる煙をかき分けて、明らかに光武F2と見られる青色の霊子甲冑が姿を現すと、その光武F2はクレーターから速やかに抜け出しカメラアイを左右に動かした。
 『出でよ、皆の者!ここがトーキョーだ!』
 外にも向けられた無線から、凛とした女性の声が中庭に響いた。そしてその声に答えるようにして、残りのカプセルからも同じように赤、黒、深緑、そして桃色の光武F2が姿を現した。
 『やれやれ・・・・・・二度目とはいえ慣れるものじゃないね』
 深緑の光武が呻くような声を出した。機体に損傷が無い事を確認しているのか、膝や肘をしきりに屈伸させている。その隣に、桃色の光武が歩み寄り、地面にペタンと腰を落とした。
 『同感。生きた心地がしないよ、ホントに』
 桃色の光武は動こうともしない。手を後ろにして体を支えているのがやっとのようだ。
 『あだじ、ぎぼじばるいでず〜。リボルバーカノン酔いでず〜;;;;;』
 『私も・・・・・何だかめまいがしますわ・・・・・』
 赤と黒の光武はクレーターから出ることも無く、よなよなとその場に座り込んでしまった。大陸一つ分の距離を翔鯨丸が東京大阪間を移動するよりも早い時間で旅行してきたのである。光武を着込んでいるとはいえ、強烈なGと落下の衝撃がパイロットに与える身体的苦痛は想像して余りある。
 ところが、先に降り立った青色の光武だけはを保っていた。まるでいかなる時もそうある事が自らの使命であるかのように、青色の光武はその毅然とした姿勢をく崩さなかった。コクピットが前後に開き、中から戦闘服に身を包んだブロンドの女性パイロットが姿を現すと、そのパイロットは残りの光武に向かい肉声で叱咤した。
 「エリカ!花火!コクリコ!ロベリア!兎も角、無事であるなら直ちに降りろ!巴里を離れてまで醜態を晒すんじゃない!」
 怪我どころか立ちくらみの一つも見せない彼女は、背中の中央まであるブロンドが逆立つほどの勢いでまくし立てた。その声に尻を叩かれたのか、残りの光武のコクピットが次々に開くと名を呼ばれた隊員達が姿を見せた。
 「なんとかたどり着きましたわね」
 上品に黒髪をかき上げた、欧州育ちの大和撫子。北大路花火。
 「うわー!本当にここがトーキョーなんですね!大感激です!」
 リボルバーカノン酔いは醒めたのか、一人はしゃいでいる赤衣のシスター。エリカ・フォンティーヌ。
 「楽しみだなー!ワクワクするよ!」
 お手製のシルクハットを頭にのせた、サーカス育ちの少女。コクリコ。
 「ダリィぞ・・・・・・なんとかしろよ、グリシーヌ」
 未だ不快感から逃れられないのか。その心境を表情に表している『巴里の大泥棒』こと、ロベリア・カルリーニ。
 「黙れロベリア!この戦斧の染みにしてくれようか!」
 「・・・・・・お前、大神に頼んで日本陸軍にでも宗旨替えした方がいいんじゃねえのか?この根性女が」
 「五月蝿い!」
 「おめーの声の方がでけえだろ?それにそんな難しい漢字、よく知ってるよなぁ?」
 「黙れと言っている!」
 そして、先程から全体を纏めようとしているのが、北欧バイキングの血を引く貴族当主(次期)。グリシーヌ・ブルーメール。
 今はバラバラに見えるこの五人が、大神の指揮の下で巴里の街を怪人達から守り抜いたという事実は、この日本でも世界の大事として大きく報道されていた。
 巴里華撃団。歌劇場「シャノワール」のショウダンサーとして働く、もう一つの花組。
 堂々の日本初上陸である。
 
 
 
  花組がそのまま地下で待っていると、程なくして薔薇組に引率された巴里組の5人が姿を現した。
 「お久しぶりです、皆さん」
 その程度の挨拶くらい聞こえてくるかと思ったが、入り口に横一列に並んだ巴里組の面持ちは、特別コーチの一件以来となる再会を懐かしもうとする人間のそれではなかった。あのエリカさえも、きりりと眉を吊り上げ口元を引き締めている。その表情はまさに戦闘態勢そのもので、これから始まるであろう事態を十分に理解している証拠でもあった。
 何の言葉も無く、火花を散らし始める13人。
 その火花が爆発する前に、ころあいを見計らっていたかえでが一歩前に進み出た。
 「では、これよりゲームのシステムを伝えます」
 そう言うとかえでは、作戦司令室の中央に置かれたテーブルを囲むように指示した。普段は花組の9人が囲んでいる席だったが、即席に巴里組用の椅子とスペースも設けられている。花組の面々が定位置に着くと、巴里組もそれに倣った。
 各員の席の前には、なにやら沢山のコード類が伸びたヘッドギアと、ブレスレットらしき物体が一つづつ、無造作に置かれている。かえではその中の一つを取り上げると、ゲームの内容を解説し始めた。
 「これより、あなた達には最後の一人が選出されるまで戦い、争っていただきます。しかし、この日本にあなた達があなた達の力を存分に発揮しぶつけ合う場所などありません。もしそれを何の準備もなしに実行したとしたら、おそらく東京の地図が書き換えられるほどのとばっちりが周囲に与えられるでしょう・・・・・・それで、私はその為のフィールドを全く別の場所に用意しました」
 何処に?
 一斉に、全員の頭の上に「?」マークが浮かぶ。そんな隊員達の反応が気に入ったのか、かえでは嬉しそうに続けた。80インチの大モニターのスイッチを入れると、そこに映し出された映像に注目するよう指示した。
 モニターの中に映し出されたのは、意外にも帝國歌劇場そのものであった。サロン、ステージ、二階客席、一階客席・・・・・・分割されたモニターに次々と映し出される見慣れた風景に、全員が釘付けになった。
 まさかこの帝劇の内部で抗争を行うつもりなのか?
 誰もがそう思い始めた時、この映像の中にある不自然な点が明らかになった。映し出されている帝劇は、どうやら完全に無人のようなのだ。事務室、薔薇組詰め所、そして今全員が集まっている作戦司令室でさえ、完全に無人なのである。
 「副指令、これは・・・・・」
 マリアが上げたその声に、かえではたっぷりと間を作ってから答えた。
 「これは帝劇の蒸気演算気が作り出した仮想空間よ」
 「仮想空間?」
 その聞きなれない言葉を誰かが繰り返した。
 「あなた達には、この帝劇そっくりに作られた仮想世界の中で争ってもらいます」
 「演算機のプログラムの中に、私達が入るっちゅー事ですか?」
 不可解そうに言う紅蘭の声にも、かえでは冷静に答えていた。
 「無論、肉体がこのプログラムの中に入り込むわけでは在りません。このヘッドギアとブレスレッドによってあなた方の意識をデータ化してプログラムの中に送り込むのです。あなたたちはこの現実世界と同様、意思を持った一人の人間として、この仮想世界の中を行動する事が出来ます。重力等の物理的法則も全てプログラムされているので、行動の際に不都合は無いでしょう」
 「ムズカシくて、なーんかよくわかんないや」
 「アイリスもわかんなーい」
 紅蘭はその答えに納得したようだが、今度はコクリコとアイリスが頭を抱えた。
 「人工的に作り出された夢を、全員が同時に見せられていると思えばいいんじゃないの?」
 かなり多くの言葉を使用している割には全く具体的になっていないかえでの答ではあったが、夢という単語に反応したのか、お子様コンビは『は〜ん』という風に頷いた。 
 自分の説明が場を納得させつつあるのが満足なのか、かえでは酔ったように話を続けた。
 「このシステムは花やしきのスタッフによって作り上げられました。しかしこのシステムの原案はとある模型店を営む男から寄せられたものであり、彼がその模型店の二階に作り上げたプロトタイプは既に我々が作成した物となんら遜色が無い程に完成されていました。巨大スクリーンの中を『1/144赤い彗星』と呼ばれる人型蒸気が『1/144白い奴』と呼ばれる新型機を追う様はまさに人類の夢とも呼べる領域まで達し、そのムーブメントは某玩具メーカーとのタイアップを得てさらに激化。後世に多大なる影響を与えたのです。例えばMSVとしての正式な製品化、カトキハジメ等プロデザイナーの介入、武者シリーズが発展させた騎士シリーズ、Etc。しかし判りやすさを追求した為にスケールモデラー達からは『ホーミングミサイルの発射音が違う』等のバッシングを受け・・・・・・」
 「講釈ご苦労。でもちょいと待った」
 かえでの思い出話(?)が延々と続きそうなムードをぶち破って、突然ロベリアが口を挟んだ。「要するに、全員で『プラモ狂四郎』がやりたい訳だ」
 いかにもダルそうな、ロベリアの声。

 ピキーン。

 まさにそんな音を立ててかえでの表情が変わったのだが、ロベリアの言葉に全員が便乗する方が早かった。
 「今なら『マトリックスと同じ』って言えば、説明不要なことですね」
 「微妙に違うんだけど、その方が判りやすいわね」
 「より明るいイメージで『トロン』を引用するもいい」
 「ウチ、あの電子バイク乗ってみたいわー!」
 「無理に古いものを引用すると、余計に思考が混乱する恐れがあるぞ?」
 「コアネタにこだわりすぎではありませんの?」
 「前置き長いでース」
 「引っ張りすぎだよー?」
 「マイナーすぎて、全然わかんなーい」
 「読者飽きてるぞー」
 「それはつまり、プリンを食べていた方がマシって事ですね?」
 次々と乱発される暴言。もしこのままかえでが黙っていれば彼女達の言葉は延々と続き、只の文句に止まらず、作者身辺におけるありとあらゆる大人の事情を巻き込んだ大暴露話に発展するところなのだろうが、幸い(?)かえではそんな性格の持ち主ではなかった。
 
 
 五月蝿いわねー!ちょっとは喋らせなさいよ!
 これが過ぎたらまともな出番なんてありゃしないんだから!!
 さもないと元ネタどおりこの場で撃ち殺すわよ!!??

 

 
 恐るべきはハイミスのヒステリー。かえでの一喝によって室内のざわつきは一瞬にして収まった。まぁ、かえでの右手にはセフティの外れたモーゼルM712(しかも20連のロングマガジン装備!)が握られていたのだから無理も無い。
 全員の口から何も聞こえなくなった事を確認した後で、かえでは咳払いを一つ唸ると・・・・・・

 「あのね、レッドウォーリーアっていうのはね・・・・・」

 さらに小一時間が経過した。
 
 
 ようやく長い前説が終わり、いよいよ全員がヘッドギアとブレスレットを装着するという段階になったところで、一つの問題が明らかになった。
 北大路花火が居ないのである。
 「花火?・・・・・・おいどこだ?花火?」
 他の者もそうだったが、グリシーヌはしきりに左右を見渡している。部屋に入ってくる時は確かに他の巴里組と一緒だった事は確かなのだが、皆、今の今まで花火が椅子に座っていない事に気づかなかったのだ。かえでを含めて13人もいるのだから、人一人居なくなったとしても誰かが気づきそうなものなのだが、なにせ全員がかえでの「現代狂四郎概論」につき合わされていたのだ(しかも銃口を突きつけられながら、である)。たとえ4、5人が居なくなったとしても、それに注意を向けられる人間はいなかったのだ。
 この現状に嫌気が差して出て行ったのか?
 そう思った一同だったが、花火はすぐに見つかった。そして、突然の消失の理由も。
 なんと彼女は、最初から椅子になど座っていなかった。彼女は自分の席のすぐ脇の床に正座し、まるで書道家が硯に墨を溶くかの如き厳粛さで、自前と思しき弓矢の矢じりを磨いでいた。しかも怪しげなヘッドギアとプレスレットは既に花火の手によって身に付けられている。先程から発言が無いと思っていたら、彼女はかえでの講釈もお構いなしにこの作業に没頭していたのだった。
 
 殺る気満々だぜこの女!
 
 全員分の視線を背中に受け、それでもキラリと光る先端に自分の顔を写しこみ、うっとりと微笑むその姿は正に『戦撫子』。花火のその様子に全員が息を呑んだ。
 そして同時に気づかされる。
 戦いは、既にこの部屋に入った瞬間から始まっているのかもしれない、と


 【残り13人】


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今回よりお約束の人数表示が開始!

次週からはこの数字の増減にも注目だ!

・・・・・・って事は、増えるの?<ヲイ

待て、次週!!