ついに大机を囲んだ13人。皆、その頭にはコードの延びたヘッドギアを装着し、その右手首には発光ダイオード満載のブレスレットが巻かれている。後はかえでの号令を待つばかりとなった今、この怪しげな器具に意見する者など誰一人いない。いやむしろ、ある者にはヘッドギアが銀のティアラに、そしてまた、ある者にはこのブレスレッドが銀のリングに見えているのだろう・・・・・これはそういう戦いなのだから。
 「心の準備はいいかしら?」
 かえでが言う。
 「はい!」
 全員が即答する。
 「もう一度言うんだけど、心の準備はいいわね?」
 「ハイ!!」
 「大神一郎が欲しいわね!?」
 「ハイ!!!」
 「何が何でも手に入れたいわね!」
 「ハイッ!!!!」
 繰り返される質問に、歯切れの良い返答が部屋の空気を振るわせた。既に片手がスイッチを握り締めているかえで自身もも、自ら招いたこの状態に興奮を誘われているようである。
 しかし・・・・・・
 「あの、皆さん・・・・・」今回のかえでの補佐役であり、それまで脇に控えていた薔薇組リーダー、清流院琴音がついに口を挟んだ。「準備するのは、お心だけで構わないんですけど・・・・・」
 
 「外野はだぁっとれゴルァ!」

 怒号と共に、清流院に向けられる武器、武器、武器・・・・・・。各々の手には、大小様々な武器が握られていたのだ。
 おそらく先程の花火の様子に触発されたのだろう。彼女が弓矢を持ち込んだ理由を悟った瞬間、花火を除く全員が殆ど同時に部屋を飛び出していた。そして再び姿を現した時、各々の手にはとっさに拾ってきたとは思い難い、むしろ今日のこの日を想定していたかのような武器がその手にしっかと握られていたのである。
 「ま、いいんじゃないの?持ち込み厳禁なんて張り紙があるじゃなし」
 「ですが・・・・・・日本刀ですよ?ピストルですよ?」
 「んー?」
 「エリカさんは機関銃を持ってらっしゃるし・・・・・・・紅蘭さんにいたっては、アレが何だかさっぱり判りませんが、それでもよろしいと?」
 「・・・・・いいんじゃないの?」
 いたってのんきなかえでの声に、琴音はさらに何かを意見しようとしたのだが、背中に感じる強烈な黒いオーラに気圧されて口を噤んだ。
 ついに邪魔者は姿を消した。恐れも、後悔も、良心の呵責も無い。
 今の彼女達の胸に在るのは、来るべき栄光のみ。
 たとえそれが血塗られたものになろうとも、彼女達はそれを奪い合うのだ。
 「じゃ、とりあえずいってらっしゃーい♪」
 気の抜けた掛け声とは裏腹なオーバーアクションでかえでが起動スイッチを握りこむと、ヘッドギアから目を覆うほどのプラスマが乱れ飛び、室内はネズミ花火の阿波踊り大会と化した。

 ついに、それも収まると・・・・・・
 
 作戦司令室の大型モニターが強く瞬いた。
 
 
 
 
 
 「・・・・・・・・で?」
 痛みも感覚も無いが、バラバラにされた体を再び構成されるかの如き不思議な感覚を味わった後、帝劇そっくりの疑似空間に送り込まれた隊員一同。その全員が帝劇一階のロビーに集まっているという意外な結果にまず驚いていたが、加えて先にこの空間に侵入していた薔薇組と出会う事は全く予想していなかったらしい。ロビーに立って隊員達を待っていた薔薇組の三人を、皆どこか憮然とした表情で見ていた。 
 「では、これより説明の続きをさせて頂きます」
 全員の注目が集まっている事を十分に確認してから、清流院がそのように切り出した。
 「なんでアンタらがここに居るんだよ?」
 カンナが面倒くさそうに言うと、清流院は事務的ではあるが爽やかに微笑んだ。
 「ま、そう仰らずに。実例の公開という事ですよ」
 清流院はそう言ってから、自前の制服の袖を捲り上げた。露になった手首には、例のブレスレットが巻いてある。清流院はそのブレスレットをチョンチョンと指差しながら、「実例」とやらの準備を始めた。
 「副指令の仰ったとおり、今現在の皆さんはこの仮想空間プログラムの中にいます。既にデータ化は終了しておりますが、存在し続ける為には、このブレスレットが必要不可欠なのです。言ってみれば、このブレスレットは皆さんのデータを演算機で処理できるようにするための「データ変換機」であり・・・・・・もっと簡単に言えば『通行パス』の様なものでしょうか。皆さんはこのブレスレットがあるおかげでこの疑似空間に存在する事が出来る・・・・・・ご理解頂いてますね?」
 促されて、仕方なく頷く一同。
 「皆さんにはこのブレスレットを奪い合っていただきます」
 「つまり、この空間から追い出された人間は負け、追い出した人間が勝つ・・・・・・と認識して構わないな?」
 グリシーヌがその様に状況を確認すると、清流院は頷いた。
 「そうです。通常の着脱はコードの入力によってのみ認識され、全部のブレスレットに全員分の着脱コードがインプットされております。無論ブレスレットの着脱暗号は全て異なりますが・・・・・」清流院は一度言葉を区切ると、隣に立つ岡に目配せした。「菊ちゃん?」
 すると、言葉を受けた菊之彦が説明を引き継いだ。
 「ブレスレットを外す時は、外す側の人間がまず自分のブレスレットにあるスイッチを『解除キーモード』に切換えてから、このようにお互いのブレスレットを密着させて下さい。そうすると、ブレスレットにインプットされている解除コードが自動的に受け側に入力され・・・・・・消えます」
 言葉の途中で、菊之彦は自分のブレスレットを操作した後に清流院のそれに近づけていった。そして、それがいよいよ密着すると、清流院の体はデジタルな残像を描きながら背景に馴染むように姿を消した。それを見た全員から驚きの声が上がる。
 「ブレスレットは『解除キーモード』へ切り替わると同時に解除コードからの保護が施されますので、この動作によって自らの動作によって自分自身が消えてしまう事は在りません。動作の前には必ずブレスレットを『解除キーモード』に切り替える事をくれぐれもお忘れなく」
 人間一人が自分の目の前から消失したことを目の当たりにして、一同の様子が一転する。皆、この化学機器に対して関心深そうに頷いた。
 菊之彦は続けた。
 「また、このブレスレットは先に述べたとおり、この世界にとっての通行パスの役割を果たしておりますので、破壊したり、無理矢理手首から引き抜いたりすると・・・・・やはり・・・・・」今度は、菊之彦がそれまで黙って立っていた斧彦に目配せする。「斧彦さん」
 すると斧彦は菊之彦の手首にあるブレスレットを摘み上げ、その太い指先で押しつぶした。まるでドーナツを千切るかの如き手付きで破壊されたブレスレットがバチッと火花を上げて床に落ちると、やはり菊之彦の姿も先の清流院と同様に姿を消した。
 「消えちゃいます♪」
 「くねっ♪」と愛想を加えて言葉を引き継いだ斧彦。菊之彦の姿は先程の清流院と同じように消えてしまった。後に残ったのは斧彦と、それを取り囲むようにして立つ13人。
 「で?アンタはどうやって消えるんだ?」
 カンナの言葉に誘われて斧彦が何かを喋ろうとした時、館内に設置されているスピーカーから外界にいるはずのかえでの声が響いた
 『あとは、ブレスレットの持ち主が一分間以上意識を失うと、ブレスレットが自動的に外れる仕組みになってるわ。眠った場合にも仕掛けは作動するから、くれぐれも気をつけてちょうだいね』かえでの声は何故か楽しげだった『じゃ、斧彦君。すぐ帰ってらっしゃね。医療ポッドはいつでも空いているわよ』
 そうれっきり無線は途切れた。奇妙な間があった後で、かえでの言葉の意味を真っ先に理解したのは意外な二人だった。
 「どうやらアンタを消すのは、アタシ達の仕事のようだねぇ」
 「証明してもらおうじゃねーの?斧彦さんよ?」
 カンナとロベリアの唇が左右に吊り上った。その微笑みの意味するところを察知した斧彦が、二人から飛び退った。
 「ちょ、ちょっと待ってちょうだいよ二人とも!?」
 「待たねーよ」
 「眠るわよ!そういう予定だったんだから!」
 「予定は未定。それが帝劇の常」
 「今すぐ眠れるわよ!かえでさんだって『チョット昼寝でもしてらっしゃい』って言ってたんだから!!」
 斧彦の言葉を無視して、二人は足音も立てずに斧彦に詰め寄った。既にカンナの右の拳は固められ、ロベリアの拳にも炎が宿っている。そしてついに斧彦が壁際に追い詰められた時、二人の拳が大きく弓を引いた。
 
 
 
 「じゃぁ眠らせてやるよ・・・・・・」
 「この拳でな!」
 
 
 
 バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ!!!!
 
「うぎゃぁあああああああああああああああああああ!!!!」
 

 
 
 本邦初公開となったカンナとロベリアの合体攻撃は、斧彦の体が完全に消失するまで続けられた。この時、ロベリアの拳が斧彦の意識を奪った次の瞬間にカンナのハイキックによって目覚めさせられるという堂々巡りがかなりの回数で重ねられたので、実際に斧彦が消失するのに3分程度の時間を要したは余談である。
 
 
 
 『じゃ、そろそろいいかしら?』
 再びスピーカーからかえでの声が響いた。その声の後方から「しっかりしろ斧彦!傷は浅いぞ!」と叫ぶ清流院の声が聞こえてくる。案の定無事では無いようだが、とにかくこれでプレスレットの効果が全て証明されたことになった。
 だがそんな事には触れもせず、かえでは意空間に立つ13人に向かって言葉を続けた。
 「皆の居場所を再設定して、全員をバラバラに配置させてもらうのでそのつもりでいてちょうだい」
 その言葉を合図に、全員の顔に緊張が走った。
 いよいよ開始される、事実上の大神一郎争奪戦。
 
 そして・・・・・・
 
 
 
 『シミュレーション ゴー!』
 
 
 
 かえでの放った時代遅れの掛け声と同時に、13人の姿はロビーから消えた。

【残り13人】


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ギブアップせい!

戦いの幕は切って落とされた!

これ以上はJASRAKに金払わんといけなくなるから省略!

待て、次週!!