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モニターの中、降魔に捕獲されたカンナ機の両腕が引き千切られた瞬間、カンナの悲鳴は止まった。と同時にモニターの映像が消え、カンナ機からのすべての情報が途絶えた。機体が破損した衝撃で無線回路が遮断されてしまったのだった。
「カンナ!おい応答しろ、カンナ!」
加山がインカムのマイクを握り締めて叫ぶ。しかし、カンナ機の無線は雑音すら伝えようとはしなかった。
凄まじいプラズマを放電しながら、肩から先を失ったカンナ機はまるで石像の様にその場に突っ伏した。残された二人は辛うじて冷静さを保ってはいたが、恐怖は既に限界に迫ろうとしていた。
「キッシャァアアアアア!」
降魔は、まるで勝ち誇ったかのような雄たけびを上げ、手にしていたカンナ機の腕を投げ捨てた。カンナの霊力を存分に吸収した降魔の体は巨大化し、発せられる妖気は、とても雑魚とは思えぬほどに凶暴化していた。降魔は鉄クズ同然となった結界を引きちぎると、己の力を鼓舞するかのように、背中の翼を完全に広げて見せた。狭い洞窟一杯に邪悪が満ちた。
「カンナ!返事をしてよカンナ!」
アイリスがカンナの名を呼びながら、横たわったままのカンナ機に駆け寄った。その動きに気づいたのか、降魔が素早く振り向く。そして地面を蹴って宙に飛んだ。
「アイリス!危ない!」
紅蘭が叫ぶのと、アイリスが気づいたのは殆ど同時だった。アイリスはカンナ機をかばうようにしてその前に立ちはだかると、ほとばしる霊力を降魔に放った。光に姿を変えた霊力は降魔の翼を壁に打ちつけ、降魔の身動きを封じた。
「ギャァアアア!」
しかし、一見して効果的に思えた攻撃は、降魔の一鳴きで無に帰った。翼に突き刺さった光の棘は、溶けるようにして姿を消した。やはり、霊力そのものを降魔が吸収しているらしい。
自由となった降魔は、アイリスを正面に見据え、再び近づいた。今度は突然飛び立とうとはしなかった。一歩一歩、アイリスに恐怖を与えるように、そしてそれを楽しんでいるかのごとく、じっくりと間を詰めていく。
「あぁ・・・・あぁああっ!」
アイリスにパニックの波が押し寄せた。
アイリスが搭乗するという前提で設計されたこの光武は、物理的装備による攻撃手段を一切搭載していなかった。彼女の作り出す霊力が、時に槍となり、時に稲妻となって降魔を撃退してきたのだ。だが、今再びその能力を発揮しようものなら、降魔は怯むどころか更にエネルギーを吸収して、その力を壮大なものにしてしまうだろう。アイリスの霊力に頼りきった性能が、今となっては最悪の状態を作り出していた。
「アイリス!落ち着くんやアイリス!」降魔の背後から紅蘭が叫んだ。「瞬間移動やアイリス!カンナを抱えてテレポートせいっ!洞窟から抜け出すんやっ!!」
だが、アイリスの耳に紅蘭の声は届かず、彼女自身が動き出す様子も無かった。降魔を前に膝を落とし、それでもカンナ機をかばうようにしてへたり込んでいる。
躊躇している余裕はなかった。
「こん畜生ぉおおおお!!」叫ぶと同時に、紅蘭はバックパックからチビロボを打ち出した。「こっち向けや、この化け物ぉ!!」
無数のチビロボは降魔の頭上を取り囲むと、それぞれがビームを放った。チビロボは降魔の周りをうるさく飛び回り、絶妙なヒット・アンド・アウェイでビームを浴びせていく。まるで蜂のようなチビロボの動きに、降魔の動きが止まった。
「ギャァ!グァアア!!」
チビロボのレーザーに降魔が怯んだ。無論非力なチビロボの事、それなりでしかないレーザー兵器が降魔にとって効果的な攻撃になる筈がない。だが、チビロボの放つビームは霊力によるものではなく、紅蘭が開発した熱線レーザーなのだ。吸収できないエネルギーに、降魔は見事に翻弄されていたのだった。
「アイリス!はよせえや!テレポートせえやっ!」
「でも紅蘭はっ!?」
「ウチにかまわんと、早よう行けや!このまま放っといたら、カンナはんは間違いなく死んでまうで!」
紅蘭は巧みにチビロボを操りながら、アイリスとは逆方向の入り口側に向かって後ずさりを始めた。すると、降魔もチビロボの動きを追いかけ、紅蘭に誘導されるようにして動き出した。
鬼さんこちら、手の鳴るほうへ。
「早よう行け!行けやアイリス!」
タイミングは今しかない。そう言葉を残して紅蘭は降魔に背を向けると、入り口方向に向かって一気にホバリングした。それにチビロボが続くと、降魔は即座に地を蹴り、アイリスを無視してチビロボを追いかけた。紅蘭は二人のために囮になったのだった。
(来いっ・・・・・もっとついて来い!気づいて引き返しても間に合わへんくらいになぁ!)
全速力でホバリングを続ける紅蘭の後方で、一瞬巨大な霊力が膨らんだかと思うと、それきり消えうせた。
「だから!軽率すぎたんです!」
マリアの叱責がブリッジに響いた。
破壊されたカンナ機を腕に抱え、突然空中に現れたアイリス機は直ちに翔鯨丸に収容された。幸いカンナの体には外傷らしいものは見受けられなかったが、一瞬の内に大量の霊力を奪われてしまった所為なのだろう、意識が無く、呼吸も脈も微弱になっていた。今は翔鯨丸に常設されている簡易式の医療ポッドがあてがわれているが、あくまでも簡易式としての性能しか持たないポッドの処置は時間稼ぎにしかならないだろう。彼女には高度な医療施設での早急な手当てが何よりも必要だった。
「目標を捕獲するどころか、貴方は一機の光武を失い、パイロットの命を危険にさらしたんですよ!」肩を震わせて怒りを露にするマリアの様子に、その場にいる誰もが口を開けずにいた。加山でさえも。「聞いてるんですか!」
加山は口を開く代わりに、黙ってマリアを見返した。その表情はまるで岩を彫ったように硬く、表情には自責と焦燥が色濃く浮き上がっていた。
黙ったままの加山に、マリアは背を向けた。親友を危険に晒した事をこの場で後悔しても仕方ないのは判っていた。だが今は、憤りを止める事が出来なかった。情報の不備を悔い、稚拙な作戦を悔い、そして何より加山を信じた自分を悔いた。
所詮、代理か。
それまでのマリアが抱いていた加山への敬意の念は、今、その言葉によって葬られた。
「紅蘭からの報告は?」
「依然応答ありません。こちらの無線も届いているのかどうか・・・・・交信不能です。電源が切られている可能性も・・・・・」
苛立ったマリアの声に、椿が希望の無い答えを返す。
「反応が無くてもいいから、呼び出しを続けて頂戴」
マリアはまるで八つ当たりするように言った。深呼吸の後の舌打ちが、彼女の心境を表していた。
レーダーを覗き込むと、紅蘭の光武を表す緑のドットと、降魔を表す青白いドットが対峙するようにして描かれていた。カンナとアイリスが脱出した直後からずっと、レーダーの様子に変化は無かった。
「何故、紅蘭は動かないんでしょう?」
すみれが口を開いた。加山とマリア以外の人間が口を開くのは久しぶりだった。そしてその言葉に答えたのは加山だった。
「おそらく、霊子系の機関を停止させているんだろう・・・・・降魔が霊力をエネルギーとして吸収しているとしたら、霊力に対して非常に敏感に反応するのかもしれない。あるいはもっと鮮明に、レーダーのような器官が霊力を捉えているのかも」
加山の分析を否定する者はいなかった。先程の戦闘、結界の中から破壊されたカンナ機を別として考えると、紅蘭機の方が降魔により接近していたにもかかわらず、降魔はアイリス機の動きに反応している。アイリスの強い霊力の前で、比較的霊力の低い紅蘭は無視された格好となった。加山はそう推測しているのだ。
「もっと極端に、奴には霊力を形や光に捉えて見ることが出来るのかも知れない」それまで、翔鯨丸の蒸気演算機によってデータ化された今の戦闘の結果を調べていたレニが加山の意見に同意した。「だとしたら、霊子機関を自ら閉ざす事によって、自分の安全をある程度確保出来る」
「ある程度、ね」
誰かがレニの言葉の末尾を繰り返した。あまりにも小さすぎて誰の言葉かは判らなかったが、明らかに自嘲的な響きがあった。
「こうなったら全員で出撃するべきです。武装は無くても、せめて紅蘭を救出するくらいなら可能なはずです!紅蘭を助けなきゃ!」
さくらの提案に皆が同意しかけた。その時だった。
「こちらから手を下すことは出来ないわ」
かえでだった。それまで腕組みの姿勢で後ろに控えていた彼女だったが、その顔には今まで誰も見たことの無いような表情が浮かんでいた。信じられないという表情を浮かべている一同を一瞥してから、彼女は言い放った。
「仮に紅蘭を救出するにしても、作戦の放棄は許されません。今作戦の目的を忘れたわけでは無いでしょう。賢人機関からの勅令。勅令はあらゆる意味で最優先・・・・・もう止められないわ」
カンナが負傷し、紅蘭が孤立するという最悪の状況を迎えても、作戦遂行を優先するというのである。一瞬の間があった後で加山を除く全員がざわめきだし、特にマリアが激しく講義した。
「作戦の変更を要請します。納得出来ません!」
「あなたが口をはさむ事じゃないわ」
「しかし、もはや予定の収容プランさえ成り立たないんですよ!?それに、今の装備では作戦の立て直しさえ───」
「そうね」かえでは表情一つ変えずにマリアの意見を肯定した。「あなた方では手が出ないわ。だから紅蘭に任せるのよ」
「まさか、このまま紅蘭に作戦を託す気ですか?」
「紅蘭の機体は霊子機関によるところ以外の長所が多いわ。彼女自身の霊力が低いという事も、この局面ではある意味有利に働くかもしれない・・・・・最終防衛ラインを構成する人員として、彼女以外の適材はいないわ」そう言って、彼女はちらりとレーダーに目を向けた。「今のところ、上手い具合に時間も稼げてるようだしね」
マリアが呻いた。「な・・・・・何ですかその物言いは!?まるで紅蘭を囮のように───」
「囮ではないわ。彼女は帝国華撃団の一員であり、然るに、彼女にはそれなりの役に立ってもらう」
「それなり・・・・・って」さくらが信じられないという表情でかえでを見返した。「それはどういう意味なんですか?」
「これは賢人機関からの勅令であり、勅令が下った場合、全ての華撃団はそのために存在する。そして今のあなたたちはそのためにここにいる。そういう事よ」
「でも・・・・・」
そのとき、レニが発言しようとして、ためらった。
「何?言ってみなさい」
集中する隊員達の視線にも黙っていたレニだったが、最終的にかえでに促され、レニはさらに迷った後、こう切り出した。
「紅蘭には・・・・・正確には、紅蘭の光武が持つ武装では、ということなんだけど・・・・・」そう言いながら、彼女は演算機を操作し、それまで自分が見ていた画面をメインモニターに映し出した。「これを見て欲しい」
モニターに映し出されたのは、破壊される前のカンナ機に取り付けられていたカメラが捕らえた、降魔の映像だった。結界であったはずの鎖の隙間から、凄まじい速さで降魔の腕が伸びカンナの腕を捕らえ、引きちぎるまでの映像が、スローモーションで再生されている。
「これがどうしたんですの?」
すみれが苛立ったように即答を促したが、レニはゆっくりと説明を始めた。
「ボクは演算機を使って、この映像から降魔の移動スピードとパワーを計算してみた。ここに映し出されているカンナの光武は、ボク達の光武とは仕様が違うということは、皆も知っていると思う。腕部の装甲をボクの光武と比べただけでも、部分によっては5cm以上も厚さの差があり、その腕を動かしている関節のジョイント部分のモーターにも実は全く異なる部品が使われている。霊子機関であるメインエンジンにしたって完全に別物だ。そしてそれらの部品が生み出す出力は全光武の中で最高の数値を叩き出している。桐島カンナ、華撃団最強の名にふさわしく、ね」
レニの必要以上に丁寧な説明の中、すみれの苛立ちは高まるばかりのようだ。「それが何?」
そのすみれに目を合わせる事も無く、レニは画面を指差しながら説明を続けた。「映像を見て欲しい。ここの───彼女の光武の出力を示すグラフだよ。彼女の反応は遅れこそすれ、次の一瞬で出力の上限を超えている。普通ならこの反応をきっかけに彼女の攻撃が始まるところさ。彼女らしく、強引にね。でも腕が伸びてきて───ここで左腕、そして右腕も───ほら、掴まれた。わかるかい?装甲の変形は既にこの瞬間から始まっているんだ。霊力の吸収が始まるのはその後。そして彼女は・・・・・」
そこから先の説明は不要と思ったのか、レニはそこで口をつぐんだ。モニター画面はカンナの身に起きた惨劇を忠実に再現している。ブリッジにいる隊員達にとっても、それで十分だった。画像データだけで音声が追加されていない事だけが彼らに対する幸いだったろう。ブリッジの中は静まり返っていた。
モニターの映像が最初に戻ったのをきっかけに、レニはこんな言葉で説明を再開した。
「もう説明することは殆ど無いよ。判らないのかい?降魔の握力は彼女の霊力を吸い取る前から、既にカンナ機の設計上の限界を超えていたんだ。そして奴はカンナの霊力を吸い取り、進化している。アイリスとの接触もあっただろうから、その妖力はさらに増しただろう───それに比例して腕力が上がる程度ならかわいいものさ」
「レニ・・・・・もっとハッキリ説明して下さい」
そう言えば別の答えが返ってくるとでも思っているのか、織姫がレニの手を取りながら言った。しかし、レニはその手を振り払うと、再び視線をモニターに向けた。
「君の想像が現実となっているのさ、織姫。これはファンタジーじゃない。紅蘭の光武のはあくまでも遠距離からの砲撃支援を目的としている。その目的が───災いして、と言うべきかな。紅蘭機の装甲はどの光武よりも薄く、機動力も低い。彼女自身の霊力が低い所為で、設計者は今以上の霊子エンジンを乗せられなかったんだ。それを蒸気機関と各パーツの効率化で補助しているが、彼女が肉弾戦で降魔を制したという記録は指の数ほども無い。それに、白兵戦に対する知識だって・・・・・・」レニは、まだ物言いたげにしている織姫を見上げた。「確かに、ボクが今言ったことは全て推測さ。でも、それはデータに基づいた判断であり、事実との差は殆ど無いだろう」
「やってみなくちゃ、判らないじゃないデスか!」
「今の時点で判る事も君は考慮すべきだ。彼女の光武はあの腕力に太刀打ちできない。あの移動スピードに追従する事も不可能だ。彼女が放つミサイルなら、降魔の移動スピードよりももしかしたら速いかもしれないけれどね」
「そのミサイルはどうなんデスか!?ミサイルだけじゃなく、紅蘭にはチビロボだってついているんデス!」
「けん制くらいは出来るだろうけど、あのミサイルで奴は倒せない。チビロボだって同じさ」
「でも紅蘭は、あのミサイルで何匹もの降魔を───」
「あのミサイルの弾頭にも霊力が込めてあるんだ。火薬の爆発によるダメージはあるだろうけど、それで致命傷を与えられるかどうか・・・・・チビロボのレーザーだって、所詮はあの程度さ。ザコを相手にするのとは違う。あの降魔は今までに戦った何者よりも強く、凶悪だ」レニはかえでを見た。「断言してもいい。今の紅蘭に勝ち目は無いよ・・・・・それでも彼女にやらせるつもりなの?」
レニに続く他の隊員の視線も受け止めながら、かえでははっきりと頷いた。困惑の表情と共に隊員達が顔を背ける中、マリアが再び激昂した。
「紅蘭の命を引き換えにするということですか!」
「そうよ」かえでの言葉は平静な響きを持っていた。それは上官としての立場から発せられたものなのだろうが、誰もが耳を疑った。「あなた達の作戦は常に命がけよ。それだけの価値がある事にあなた達は気づいていないの?」
「なら私も・・・・・私も出撃します!出撃させてください!」
「お願いします!」
二人のやり取りに耐え切れなくなったのか、花組の中からも抗議の声が口々に上がった。その表情は一様に真剣で、友人でもある隊員の危機を救おうとせんとする使命に駆られているようだった。
だがその声も、かえでの意思を変えられるものではなかった。
「あなた達の出撃は認められない───あの降魔にあなた達の光武が勝てる可能性は、紅蘭以下よ」
まるで夕食のテーブルにて明日のスケジュールを通告するがの口調で、かえでは全員の無力を通告し、訴えを退けた。そんな彼女の表情を見るのは誰もが始めての事だったが、彼女の瞳の中にありありと浮かぶ怒りと嘲りに全員が気づいていた。そして彼女の言葉に、何か予知めいた、決して否定する事が許されない響きを感じていた。
さくらは、気づかれないように視線を動かし、かえでを見た。そこには今まで誰も見たこともないような彼女の表情があった。発せられる言葉に今まで感じていたような慈悲も慈愛は無く、ただ階級と命令を盾にする司令官としての言葉しか聞こえてこない。彼女は今までも司令官であった。これからもそうあり続けるだろう。だが、今の彼女はさくら達がそれまでに愛し続けた人物ではない。
そのときさくらは、ふと、かえでという人物は今までも同じように常に冷徹であったのではないかと思い始めた。慈愛や慈悲こそが華撃団に対する彼女の立場上からの言葉であり、真相は別だったのではないか。さくらは自分の想像と目の前で繰り広げられている状況と、自分が想像する事実との間に感じるリアリティに、既に恐怖じみたものを感じ始めていた。
(こんなときに、大神さんがいてくれさえすれば・・・・・)
いつの間にか、さくらは呟いていた。その言葉を呟くとき、その事が全ての原因ではない事は彼女も判っている。だが同時に、それが万能の解決策であるとも思えるのだ。大神が帝劇を去って以来、さくらが何かを思うときの終着は、その答えが要約するようになっていた。大神がいてくれさえすれば、私達を導いてくれる。あの人が何とかしてくれる。大神さんに会いたい・・・・・
そんな中でも、マリアだけはかたくなに抗議を続けた。まるでそれ自体が彼女の使命でさえあるかのように。しかし、今のかえでの前にあっては、彼女の使命感も存在も、駄々をこねる子供程の価値さえなかった。
「今や肉弾戦でしか攻撃の方法を持たないあなた達が、霊力を吸い取るという馬鹿げた能力を前にして、一体何が出来るというの?接触・・・・・いいえ、近づく事さえ不可能よ。あの降魔の前では、あなたたちは無力───餌でしかないわ」かえでは全員に冷酷な視線を送った。「素手の光武で出撃して、カンナの隣に寝転ぶつもりなの?」
「でも、紅蘭がそうなるかもしれないんですよ!?」
瞳の中にあるものを見せ付けるように、かえでは全員を見渡した。だがその視線を跳ね返し、両の拳を白むほどに固め、マリアがかたくなに抗議する。
「むしろ望ましい結末だわ」マリアの絶叫に、かえでの唇の両端が吊り上った。笑っているのだ。「その程度で済むのなら・・・・・ね」
マリアに次の言葉は無かった。マリアばかりではない、もはや彼女以外の誰にも、かえでへの言葉は見つけられなかった。かえでは踵を返し、全員に背を向けた───それが意思表示であるかのように。
そんな中、一歩踏み出した人間が居た。「私が出撃します」という、おおよそ事務的な声がブリッジに響き、全員の注目を集めた。加山だった。
マリアがまじまじと彼を見返したが、それにも気づかぬように彼は言葉を繰り返した。
「私が出撃します。紅蘭と合流の後、降魔の捕獲に全力を注ぎます」
「何を一体・・・・・あなたの為の光武も無いというのに、どうやって出撃をするっていうんです!」
マリアがすぐさま正論を返す。しかし加山はそれを無視した。
「花やしきに回線を繋いで下さい。今作戦に対しマンタレイの使用許可を正式に要請します」
───マンタレイ?使用許可?それは兵器の名前なのか?
聞き慣れない言葉の前に、一同がざわめく。それに対して一切の注意を払わず、かえでは加山を正面から見据えた。加山の視線は揺ぎ無く、その目は何かを信じていた。
かえでは腕組みの姿勢を崩さぬまま、加山の提案を承認した。
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