真っ白な湯気に包まれたかぼちゃのポタージュ。
 マリア秘蔵のドミグラスソースでまろやかに煮込まれたビーフシチュー。
 テーブルの中央に積み上げられた、カリカリに、しかし内側はふんわりと焼き上げられたフランスパンはもちろん自家製。
 これが帝劇の今日の夕食メニューである。
そしてそれらが・・・おかわりは全部カンナに持ってかれたが・・・全部なくなっても、大神と椿は戻ってこなかった。
 「・・・あ〜あ、お兄ちゃんかえってこなかったよ」
 「まったく、どこ行っちゃったのかしらねぇ。散歩だったらとっくに帰ってきてもいいのに。ねぇ?」
 「ねぇ〜え」
 つぼみとマリアが食器を片付けるそのテーブルでは、さくらとアイリスが食後の紅茶を楽しみながら、今だに帰ってこない大神の心配をしていた。その後ろにはフント用のボウルを持った紅蘭が、首をひねりながら中庭から戻ってきたところ。
 「おっかしいな〜・・・フントもおらへんよ。あんにゃろ晩ご飯どきには必ずかえってくるんやけどなぁ」
 「案外、デートでもしてるんじゃねえか?」
 名残惜しそうにスープ皿をマリアに返したカンナが口を挟む。
 「大神さんはそんなことしません!!」
 「お兄ちゃんはアイリスとしか「でぇと」しないんだよ!」
 「わわっ・・ちがうよ。フントのことだって;;」
 ものすごい剣幕で二人に詰め寄られたカンナは、慌てて両手を振って二人をなだめた。
 「それにしてもですわ」ニ杯目の紅茶をていねいに注ぎながらすみれが口を開いた。「夕食とはいえ、こんな美女との会食をすっぽかすなんて、少尉ったら・・・紳士として有るまじき行為ですわ」
 「こんな美女ってだーれよ?」
 カンナがすかさず茶々を入れる。すみれは顔も向けずに、すまし顔で答えた。
 「パンくずを散らかしたりしない人で、紅茶をおいしく煎れられる人のことですわ」
 「それとたまに塩と砂糖を間違える人か?」
 「ぐ;;;」
 「ハイ一本。それまでやで」
 歯軋りしながら、受け皿をフリスビーの如くかまえたすみれを紅蘭が静めた。
 「しかしあれやな。これは何かペナルティを付けなあかんのやないか?」
 紅蘭が提案する。
 「どんなペナルティ?あんまりヒドイのはかわいそうよ。」
 「腕立て10000回とか?」
 「・・・だめじゃん」
 「え?じゃあ100000回か?」
 「そやないて!死ぬがな!」
 「何か・・・買ってもらうとか」
 「そやな・・・罰金よりは良心的なんとちゃうか?ええわ、それいっとこか」
 「アイリスねぇ、ケーキがいいなぁ」
 「あ、あの「鈴蘭本舗」の?あそこのチーズケーキおいしいわよねぇ」
 「『鈴蘭本舗』かぁ・・・」
 さくらが言った言葉を、紅蘭は何やら意味ありげに繰り返した。
 「何よ。どうかしたの?紅蘭」
 「ん?ま〜な。ちょっと思い出すことがあってな」
 「何だよ。面白い話なら聞いてやるぜ、話しちゃえよ」
 「そうやな・・・おーいマリアはん、終わったー?」
 「まだだけど、もう少しだからちょっと待ってて」
 紅蘭は首を後ろに向けて、マリアとつぼみをテーブルに呼び、さらに既に部屋に戻っていたレニと織姫、さらにはかえでまでも呼び出した。
 「紅蘭さン、何ですかー?」 
 プライベートを邪魔されたのが気に食わないのか、織姫はややむくれた顔でテーブルについた。
 「まま・・・レニも座って座って。」
 全員が席につくと、紅蘭を中心にして視線が集まった。
 「あのな、これはとっておきの話なんやけどな・・・」
 
 そして紅蘭の話が始まった。


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