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「・・・でな。その時の大神はんってば本当に、何か・・・いい感じやったわぁ・・・♪」
「何だよ。面白い話ってんだから黙って聞いてりゃノロケかよ。あたいもう行くぜ〜?」
「ちょっちょっちょ!!待ちいな!話はこっからやで・・・そうや、かすみはん達も呼んだってや!」
二人がお好み焼きを食べ終わる頃には、今まで店を組んでいた屋台も暖簾をかけ始め、殆どの出店が出そろっていた。さすがに盆踊りの時間まではここに居ることは出来ないが、ギリギリの時間まで遊んでいこうという事になり、二人は立ち並ぶ屋台の群れに近づいて行った。
「なあ、大神はん!あそこ!金魚すくい!」
「ほんとだ。やっていこうか?」
「ほらほら、あんずあめも売ってる!ほんま、祭りってかんじやな〜!」
大神とすごせる時間がどれほど楽しいのか、紅蘭は時々大神の手を引っ張りながら、周りの子供達と変らぬ様子ではしゃぎまわっていた。
「ほらほら!綿菓子やで!大神はん、あれ食べよ!」
「え?お、おい!走ったら危ないよっ紅蘭!」
二人はほぼ中央に陣取っている、一軒の綿菓子の屋台へと近づいていった。そこには袴姿にフリルのエプロンという、この場にはおおよそ似つかわしくない姿の少女が売り子をしていたのだが、表情は堅く、どことなく困り果てている様子だった。
「わたあめ2つ。大盛りでおねがいしま〜す!」
「こらこらぁ、そんなこと言ったらお嬢さん困っちゃうだろ、紅蘭」
「じゃあ、ワサビぬきでおねがいしま〜す!!」
「だめだっての!」
「なら、チャーシューぬきでおねがいしま〜す!!!」
「ちがうっての!!」
屋台を前にして、期せずして紅蘭&大神の『帝国新喜劇プチコント』が繰り広げられた。紅蘭があまりにも元気良く喋るので、周りにいた通行人からも笑いが飛んだ。
「・・・なあ、おおがみはん?」それまでボケまくっていた紅蘭が大神に顔を近づける。「今のネタ、このお嬢さんにはちとむずかしかったんかな?」
確かに、売り子の少女は二人の漫才を聞いていただろうにもかかわらず、その表情をほころばせるどころか、今にも泣き出しそうな顔で二人の前に立っていた。歳の頃は紅蘭よりも少し下か。ややうつむき加減の顔に掛かった長い三つ編みが印象的な、美しい少女であることに大神はこの時気づいた。
「ま、まぁ・・・今のはなかった事にしてもらうとして・・・わたあめ2つください、お嬢さん」
「え・・・?っはい!いらっしゃいませ!えっと・・・ありがとうございますぅ!」
「なんや、聞いとらんかったんかいな?」
紅蘭はやや不満そうに独り言を言った。しかしそれは唸り出したわたあめの機械と割り箸を振りかざして格闘している少女には聞こえるはずもなく、その代わり隣に立っていた大神が「まぁまぁ」という視線で答えた。
「はい、どうぞぉ〜。二つで・・・えっとぉ、14銭ですぅ」
「ありがとう。ほら紅蘭?」
大神は少女から二つの綿菓子を受け取ると、その一つを紅蘭に手渡した。十何年振りの綿菓子はまだ暖かく、大神が口に含むとザラメの懐かしい味が口一杯に広がった。
「あぁっ、この味や〜。なつかし〜」
恐らく紅蘭も大神と同じ気持ちになったのだろう。紅蘭は綿菓子の中に眼鏡をうずめるようにしてその味を楽しんでいた。
「ああ・・・こまったなぁ・・・どうしようかなぁ・・・」
二人の綿菓子がすっかりなくなってしまう頃になっても、売り子の少女は未だにその表情を変えずに屋台の中で立っていた。
「・・・大神はん、この人なんかこまっとるらしいで」
紅蘭が割り箸を咥えながら言う。
「うん・・・」
大神は、紅蘭のその声に「へ〜んな含み」がある事に気づき、わざと気のない返事をした。しかしその作戦の効果は虚しく、次の瞬間には紅蘭は少女に話しかけていた。
「お嬢はん、どないしはったん?よかったらウチとこの「男前」が話聞いてあげるで?」
「紅蘭!!」
無駄と知っても大神の声が飛んだ。紅蘭tが一度「相談話モード」に入ったら、例えそのために徹夜で新発明をひねり出す事になろうとも、それがどんな結果に終わろうとも、介入しなくては気が済まなくなってしまうのだ。・・・まぁ紅蘭の場合、それが面白くてやっているのかも知れないが・・・
「えっと・・・」やけに熱心な紅蘭に心を開いたのか、それとも根負けしたのか。少女が戸惑いながらも口を開いた。「・・・じ、実は、お砂糖が・・・・」
「鈴蘭このみ」と名乗った、売り子の少女の話はこうだ。
まだ祭りも序盤だというのに、持ってきていたザラメが後20本も作らぬ内に無くなりそうなのだという。ザラメを追加するには少女の勤め先である『鈴蘭本舗』の浅草支店まで取りに行かなくてはならないのだが、その間店番をしてくれる人も居らず、かといってこのままにもしておけず途方にくれていたのだ。
「ふ〜ん、そりゃたいへんやなぁ・・・?大神はん?」
紅蘭の声に『へ〜んな含み』がより色濃くなっているのが分かる。
まさか・・・?
やめろよ・・・紅蘭・・・?
「よっしゃ、ウチらにまかせとき!」
・・・遅かった。
5分後には少女は砂糖の缶を持って走り出し、そしてその場には少女のエプロンを借りた紅蘭が、あるはずの無いチャイナドレスの袖を捲り上げて売り場に屋台の中に立っていた。
「紅蘭・・・知らんぞ。俺は・・・」
「え〜よ。まぁ見といてや!バッチリやったるさかい!」
とりあえず後ろに立った大神を振りかえりながら、紅蘭は得意顔でピースサインをしてみせた。
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